【TPP投資章リーク:パブリック・シチズンによる批判的分析文書】
九大磯田先生が仮抄訳・整理くださったものを共有します。PDF4Pです。
https://www.facebook.com/groups/TPPNO.kyudainou/ウィキリークスが3月25日にリークしたTPP投資章テキスト(2015年1月20日時点)に対する,同日付パブリック・シチズンによる批判的分析文書を仮抄訳・整理したものをアップします。焦点のISDS関連条項批判が中心です。リークテキストは
https://wikileaks.org/tpp-investment/,パブリック・シチズン文書原文は
http://citizen.org/documents/tpp-investment-leak-2015.pdf,にあります。
<印刷をお勧めしますが、以下テキストのみ抜粋>
投資章リークテキスト(2015年1月20日時点)の特徴(磯田仮抄訳)
1.投資章(協定第U章)の最新リークテキスト
*2015年3月25日にWikiLeaksがリーク
(
https://wikileaks.org/tpp-investment/)
*「投資交渉グループが2015年1月20日時点で,同1月26日〜2月1日ニューヨーク首席交渉官会合用に準備した」もの
2.リークテキストの特徴(主としてパブリック・シチズンによるISDSに焦点をあてた即日公表批判的分析Lori Wallach and Ben Beachy, Analysis of Leaked Trans-
Pacific Partnership Investment Text, Public Citizen, March 25, 2015,
http://citizen.org/documents/tpp-investment-leak-2015.pdf, より)
(1)未合意部分(カギ括弧square brackets)がかなり少なくなっている(本体29条+2条,附属文書13点,55頁のうち,注を除く未合意部分31箇所) 相当「合意」
に近づいている
(2)各論(投資家国家間紛争ISDSをめぐる主要点)
@オバマ政権が(多くの米国内批判・懸念に「応じて」)ISDSの濫用を何かしら制限すると言明していたのとは裏腹に,過去の米国FTA・投資協定等のISDS条項と変わらないばかりか,さらにいくつかの条文によって,より広範な国内政策・政府行為を提訴対象にするもの
A極めて広範囲な「投資」定義
(ア)全ての資産,収入・利益の期待,リスク引き受けを含む。
(イ)具体的に,規制上の許可,知的財産権,証券やデリバティブ等の金融商品,建設・経営管理・生産・譲許(concession)・分収(revenue-sharing)・その他類似の投資先政府との契約,免許・認可・その他類似の諸権利
(ウ)前回投資章リークテキスト(2012年6月リーク)にあった「投資定義を狭めよう」という提案は削除されており,また「ISDS対象から政府調達,補助金,政府助成を外す」という提案も削除
★これら全てがISDSの対象,しかもTPP発効以前のものまで!
★さらにアメリカ政府は以下をISDS対象にしようと執拗に追求(他のほとんどの諸国が当初から反対しているが,なお「未合意」)
*政府調達契約(道路,橋梁,運河,ダム,パイプライン等のインフラ建設)
*政府が管理する土地の天然資源譲許(concession)契約
*政府との公共サービス運営契約(発電・送電,上下水道,電気通信等)
B投資家国家間紛争の投資先国内司法での措置を事実上排除
(ア)2012年リークテキストにあった「ISDS訴訟を起こす前に,投資先国内での法的措置を追求しなければならない」(国際法の根本原理の一つ)という提案を削除
(イ)同じく「投資家は投資先国裁判所かISDS仲裁機関か,どちらかを選択しなければならない」という提案さえ削除され,「チリ,ペルー,メキシコ,ベトナム以外では投資先国裁判所で負けても,さらにISDSに再提訴できる」とされている
Cアメリカはじめ各国政府が約束したISDS濫用歯止め(セーフガード)は実質的に何も措置されていない
(ア)これまで国際投資家国家間仲裁センター(ICSID)等が政府の規制行為を敗訴させてきた最多の根拠は,「慣習国際法上の最低基準(絶対的に維持すべき待遇の水準)」(MST),あるいはそれと密接に結合した「公正衡平待遇」(FET)への「違反」。
(イ)何が「間接収用」なのか,「待遇の最低水準」なのかの規定は,ほとんど中米自由貿易協定附属文書のコピー。だが国際仲裁機関は同附属文書の存在にもかかわらず関係国政府を敗訴させてきたわけなので,TPPテキストは「濫用歯止め」になり得ない。
DWTOの「知的財産権の貿易関連側面(TRIPS)協定」(その紛争解決は国家間でしかあり得ない)について,個別外資企業が進出先政府による知財の認定,制限,ないし取消行為等を,同協定違反としてISDSで提訴できるとしている
例えば新薬企業に絶大な権力を付与する
E各国民の公衆衛生,安全,環境等の公共福祉目的で内外無差別の政府規制行為を,「間接収用・ISDSの対象としない」という濫用歯止めにも抜け穴
(ア)「投資と,環境,衛生,その他の規制諸目的」という条文があるが,「締約国政府は,協定が外国投資家に与えている全面的な権利と齟齬をきたさない限りにおいて,公益保護を立法化してよい」と。
(イ)「まれな環境下では(間接収用対象外への)例外がある」との一言を挿入
(ウ)法文上,内外無差別であっても,結果的に外資企業に不利となれば(例えばCO2排出基準が,技術的理由で外資企業に不利に作用した場合),提訴可
(エ)「正当化される公共福祉目的」で内外非同一待遇可能性に言及するも,何が「正当化される」かは結局,国際仲裁機関の判断歯止めにならず
(オ)豪州が衛生政策を,マレーシアが政府調達を,カナダが文化政策を,それぞれISDS対象から外す提案をしているが,他の国々から反対されて「未合意」
F国内・地域ビジネスの支援,雇用創出,経済発展のための施策もISDS対象に
*例えば政府調達で,内外企業無差別に「国内産・地場産原材料使用」を求めても,「投資事業特定措置要求(performance requirements)禁止」違反とされる
G資本移動規制,金融取引税,その他の金融危機防止規制もISDS対象
(ア)資本・資金移動規制は一般的に禁止
(イ)深刻な国際収支上の困難,対外金融上の困難時,マクロ経済運営の困難時にのみ,臨時的かつ数多くの条件付きで認められる可能性があるだけ
(ウ)2008年国際金融危機のようなシステミック・リスク防止目的の,資本移動規制,金融取引税,その他のマクロ・プルーデンシャル規制(全金融機関対象の規制・政策)はISDS対象になりうる