2016年06月24日

AMネット会報LIM2016年6月号より「TPP批准の前に交渉内容を明らかに!」原稿紹介

AMネット会報LIM79号(2016年5月号版より)
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TPP批准の前に交渉内容を明らかに!
文責:AMネット事務局

国会での承認案と関連法案は審議持ち越しに
今年4月の衆議院本会議でTPPの承認案と関連法案の審議が始まりました。しかし、この議案は審議未了のまま、参院選後の秋の国会へと持ち越されることになりました。

そもそもこの国会で承認案が先送りとなったのは、政府の情報公開があまりにも不十分であったことが大きな要因です。政府は、野党からのTPP交渉に関する資料提出の要求に対し、表題と日付以外すべて黒塗り(通称のり弁)の文書で回答、交渉内容はあくまでも秘密との姿勢を取り続けています。

その一方で、TPP特別委員会の西川委員長によるTPP交渉の内幕を描いた本(直後に予約中止、現在発売中止)が委員会終了日後に販売予定だったことから、本の内容程度は話せるはずだと審議中断、さらに熊本地震の発生も重なり、審議未了で先送りとなりました。

タフネゴシエーターと言われた甘利大臣は、「睡眠障害」を理由に1月28日の辞任表明記者会見以降、1か月休養、更に2か月延長期間が過ぎた今も、一切国会に出て来ていません。

石原大臣は「各国との具体的なやりとりは公表しない。日本側の提案も、相手国の反論を想起してしまう」とし、コメ大幅譲歩の経過について「引継ぎを受けたのかどうか」すら「答えられない」と、まともに答弁する姿勢すら見えません。


国会で分かってきたこと
「聖域」重要5項目(594品目)のうち、関税撤廃除外の品目はいくつか尋ねた質問に、森山農水大臣も石原大臣も答弁できず審議は中断、再開後の委員会で「無傷はゼロ」であることが判明しました。“聖域の内容すら答弁してよいかどうか、とっさに判断できない”秘密主義だということが改めて、露呈しました。

「重要5品目の除外と再協議はどうなったか」という質問に石原大臣は、もともとTPP交渉では除外・再協議はないと答弁、聖域といいながら“交渉当初から捨てていた疑いも濃厚”であることも分かりました。

安倍総理は「例外を勝ち取った」と言いますが、「例外」という言葉はそもそもTPPにありません。国会決議も「聖域の除外と再協議」であり、決議違反は明らかにも関わらず、安倍総理は「国会決議にかなうかどうかは国会が決めること」と、責任を国会に押し付けています。また4月委員会審議で安倍首相は「TPP断固反対と言ったことはただの1回もない」と答弁。あの選挙ポスターは一体…?驚きを隠しきれません。

また、子宮頸がんワクチンとISD条項の関係も明らかになりました。

4月参院行政監視委員会で「WHOも勧奨再開を勧告、勧奨中止は日本だけ。TPPが発効後、米国メルク社等が、ISDSで数百億の損害賠償を請求するのでは」との山本太郎議員の質問に対し、塩崎大臣・澁谷審議官は、“米国メルク等が日本政府を訴えることは可能”と認める政府答弁をしています。

幅広くTPPの内容を知らせるためにも、こういった丁寧な中身の議論が求められる中、自民党 大島衆院議長は4月末、米下院のライアン議長と米国で会談し、TPP承認案等について「秋の(臨時)国会では結論を出せるのではないか」との発言が報じられました。


資料は黒塗り、交渉を担った甘利氏は、汚職疑惑と病気で国会不在、交渉の事務方トップの鶴岡主席交渉官も駐英大使に異動、石原・森山両大臣の答弁は前述のとおり…といった状況では、十分な審議など出来るはずもなく、審議時間は取ったという体裁さえ整えれば、あとは多数決で批准に持ち込む、批准ありきの姿勢が政府の対応に表れています。
TPP特別委員会に民進党のTPP賛成議員が多い懸念もありますが、参院選公約にTPP反対方針が明記されました。


米国、他参加国の状況

4月、元米国国防長官8人が、下院上院の共和党と民主党に「TPP批准を進めるよう」書簡を送り、現在の議会(2016年末)までに批准しなければ、TPP成立は困難になるとしています。共和党の上院トップ、マコネル院内総務は「承認は来年以降」、ハッチ委員長は「五分五分」。11月8日大統領選挙後の新大統領が着任するまでのレームダック期間に審議・採決が進む可能性もあります。

トランプ氏もNAFTAを非難し保護貿易を訴える一方、「不利な協定ならば改訂する」と述べ、絶対反対かは微妙です。現時点で反対姿勢のクリントン氏も、大統領に決まればTPP協定の再交渉を求め、さらに厳しい要求をすることも懸念されます。

米コロンビア大のジョセフ・スティグリッツ教授は「TPPは悪い貿易協定であるという共通認識が広がりつつあり、米国議会では批准されないであろう」と指摘、変わらずどうなるか見えない状況です。

5月12日、ニュージーランド議会は、TPP協定の審議開始を採決、62対59で審議入りを決め、マレーシアはすでに批准を議会承認しています。

一方、TTIP(EU 米国の包括的貿易投資協定)が交渉決裂の可能性があると、5月、フランス政府の対外貿易担当責任者フェクル氏が発言しています。

インターネットや言論の自由、知的財産権の問題等で、EUを中心に大きな反対運動がおこったACTA(偽造品の取引の防止に関する協定)は、大筋合意、署名まで進んだものの、批准国は日本だけで発効していません。日本政府は、このまま強引な審議を進めればACTAの二の舞の可能性もあります。


米国際貿易委員会(ITC)の環境影響調査から
5月18日、米政府機関の国際貿易委員会(ITC)が、TPPの経済効果分析をオバマ大統領と議会に提出しました。調査は批准に必要な手続きで、順調に批准手続きを米国も進めています。審議開始の見通しは立っていないものの議会調整ができれば、TPP実施法案(期限設定なし)を提出し、上下両院90日以内の審議で採決です。

このITC調査で米国経済はTPP批准で2032年GDP拡大わずか0.15%ポイントと分かり、米国民にとってもメリットがないことが明らかになりました。

また、今回のITC報告で、日米コメ交渉に「文章化していない約束」で、「米国に保証する」輸入枠が言及され、それは「密約」なのか、単なる「米国業界の期待」なのか? コメ以外にも何かあるのでは?と、懐疑的にならざるを得ません。

表の農産物全体でみても、米国は日本への農産物輸出が約4,000億円増と分析、一方日本政府は「米国以外」の影響も含めて生産減少額は1,300億〜2,100億円にとどまると予測、日本政府の試算とも大きく違うことが分かります。


日本政府試算のGDP14兆円拡大も、石原大臣は「効果がでる時期がいつかは分からない」と答弁、影響調査自体、意味ある試算なのかが問われています。


市民グループの動き
情報公開を求め分析する動きはもちろんのこと、「TPP交渉差止・違憲訴訟」の実施や、「STOP TPP」を掲げての官邸前アクションや各地での抗議活動なども継続的に行われており、夏の参院選そしてTPPの継続審議が行われる秋の国会に向けて、TPPを巡る動きは、大きなヤマ場を迎えています。

私たち「市民と政府のTPP意見交換会・全国実行委員会」は緊急声明『TPP特別委員会において、丁寧で慎重な審議を求めます』を発表、

「黒塗り資料は外交文書でなく内部文書。保秘義務契約の対象になりえるのか。交渉は終わっており、自国民に自国の立場を説明するのは政府として最低限必要な説明。そもそも、TPP特別委員会の議員にすら「何が秘密なのかも秘密」であり、恣意的に政府が秘密にできてしまう。」と批判しました。


「ほんまにええの?TPP大阪ネットワーク」では、TPP特別委員会の議員に要請文を送付、
「国会審議で、国会決議に関する政府の交渉対応を検証すべき。45ページ全て黒塗りでは、委員会審議が進められないのは誰が見ても明らかだ」と批判しました。

5/27・6/24・7/22「説明不足のままのTPP批准にNO!」街頭アピール、学習会も開催予定です。7月選挙、秋の国会に向けて、動き始めています。■
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2016年06月18日

北海道通信〜北海道農業事情-〜この先の『食と農と環境』への取り組みvol.3 -

AMネット会報LIM78号(2016年2月発行)より

北海道通信〜この先の『食と農と環境』への取り組みvol. 3
清水 敬弘さん

 北海道・オホーツクの農業団体職員、清水 敬弘です。
第3回目では、日本政府のTPP「影響試算」の農業団体としての見解や、【聖域】とまで呼称されてきた重要5品目が北海道内ではどの様な位置づけにあるかなども含め、検証していきたいと思います。

ご案内の通り、日本政府は昨年12月24日に影響試算額を公表しました。

3年前に3.2兆円の経済効果があると試算した実質GDP(国内総生産)は、今次のTPP協定で何と、14兆円も増加すると見込む一方で、農林水産物は万全な国内対策によって、影響は再度『限定的』であるとし、1,300〜2,100億円に留まると過小評価しました。

この試算公表には、私ども農業団体のみならず、各界の有識者からも厳しい批判が相次いでおります。

また、なぜ一度、協定合意した農畜産物の品目も、7年後に「再協議」のテーブルに上げられてしまうのか?明確に政府から示されない状態が続いています。私どもは、政府が示した影響試算は、【効果を過大評価し、被害を過小評価】するものであり、その対応姿勢は、まるで戦前の「大本営発表」を思わせると厳しく追及しております。


 これまで北海道の農業団体は、各関係機関・団体と連携を深めながら、衆・参両院での「国会決議」を遵守せよ!と訴え続けてきました。それらは、繰り返し本編でお伝えしてきた【聖域】と呼ばれる重要5品目の影響が極めて大きい地域が北海道農業であるからです。


歴年にわたり、『日本の食糧生産基地』と呼称され、国の農政誘導が進められてきた北海道では、広大な農地面積を有する反面、重要5品目に全て該当する『コメ・小麦・てん菜・馬鈴しょ』などを幾多の歳月をかけ品種改良し、『寒冷地作物』として確立してきました。

とりわけ、小麦・馬鈴しょと同様にオホーツク地域では、砂糖の原料となる「てん菜(別名:砂糖大根)」は、民間の製糖工場に原料を搬入し精製糖として食卓に並ぶまでの過程で、実に数多くの関連企業との連携を必要とします。

畑で収穫するためのトラクター・各収穫機械の「農機具メーカー」に始まり、収穫した「てん菜」原料を大型トラックで製糖工場に搬入し不純物を迅速に搬出するまでを担う「運送会社」や工場内の各部署ごとに働く「専門スタッフ」など、てん菜生産のみを抽出しても農業は地場産業者とともに歩む、極めてすそ野の広い基幹産業であります。

他方、前述の農作物等が栽培することが難しい地域では、牛・豚(重要5品目)などの畜産振興を推進することで、広大な北海道の農地を守り抜いてきました。

しかし、輸入農畜産物とは圧倒的な「内外価格差」があることから、『政府管掌作物(国が内外価格差是正を目的に、作物価格を決める「国家貿易品目」に指定される作物:コメ・麦等)』で国内農業衰退を防いできました。


私どもはTPPなどの貿易交渉で『関税差益』が撤廃されると、【世界の常識】である自国の農業生産はもとより、代替作物が存在せず、地域農業者がこれまで「てん菜」等を生産することで果たしてきた『地域コミュニティ(地域雇用)』をこの先は守ることができないとの「統一見解」を持っています。


また、関税収入は農業・農村振興にも役立ててきました。

近年、全国各地で乱発する自然災害を最小限に食い止めるための国土保全・治水効果など、農地の『多面的機能』を日本以外の諸外国では農業政策により、当たり前のように支援しています。

関税収入が枯渇した状態で、日本政府は『必要財源』を一体どのように講じていくのでしょうか。


最後になりますが、私ども北見地区農民連盟では、過日2月5日に、最高決議機関である「第57回定期総会」において『TPP断固反対、批准阻止を強く求める特別決議』を採択しました。

いつから、農業団体は、国会批准対策を諦めたのか?と、生産現場・内外から強いしっ責を受けています。私どもはこの先も、北海道農業・農村を守ることは日本の「基礎食料生産」を守り抜くことに直結するとの観点から、取り組みを強く継続展開してまいります。■

<これまでの北海道通信はこちらから>

北海道通信vol.1 北海道JAの役割
http://am-net.seesaa.net/article/430972793.html

北海道通信vol.2北海道農業とTPP聖域5品目の関係
http://am-net.seesaa.net/article/438060983.html

北海道通信vol.3北海道農業事情
http://am-net.seesaa.net/article/439134227.html

北海道通信vol.4 生乳の仕組み、指定団体制度の役割
http://am-net.seesaa.net/article/442570265.html

北海道通信vol.5 バター不足の真実
http://am-net.seesaa.net/article/442570586.html

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posted by AMnet at 15:19 | TrackBack(0) | 北海道通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする