東京都大田区議の奈須りえさんとオランダのNGO「トランスナショナル研究所(TNI)」の岸本聡子さん、さらにAMネット理事の神田浩史をコーディネーターに加えたパネルディスカッションの様子をお伝えします。
文責 AMネット 事務局
■講演1.「民営化でどうなる?公共の可能性は?」≪奈須りえさん≫
http://am-net.seesaa.net/article/444348256.html
■講演2.「より良い公営へ〜最新海外レポート」≪岸本聡子さん≫
http://am-net.seesaa.net/article/444348316.html
■パネルディスカッション(以下敬称略)
神田−−後半のパネルディスカッションは、会場からの質問を元に進めて行きたいと思います。
水道事業の民営化については、現政権下で成長戦略にも盛り込まれており、推進していこうという動きがあります。それと、現在進んでいるTPPやTiSA(新サービス貿易協定)の流れをつなげてみたときに、どのようなリスクが考えられるでしょうか。
奈須−−国内で行われている規制緩和と違い、TPPやTiSAが実施されると、ラチェット条項によって、いったん規制緩和されてしまった民営化はあと戻りできない、再公営化できないという状況が生まれてしまいます。さらにISDS条項によって、企業が見込んでいた収益を得ることができなかった場合も、企業が国家を相手に訴えることや損害賠償を請求することもできるようになってしまいます。
いくら大阪市が、水道事業を行う企業に様々な縛りを設けても、TPPが実施されれば、その縛り自体が機能しなくなる°ーれがあるのです。
岸本−−アルゼンチンで18の水道民営化事業が行われ、そのうち9つの事業が再国有化されました。そのうち6つが国際調停に持ち込まれて、全てアルゼンチン側が負けています。
さらに最近は、「国際紛争調停ビジネス」が広がっています。企業が海外投資を行い、うまくいかなかった場合に、弁護士事務所が企業と組んで訴訟に持ち込み、莫大な損害賠償を勝ち取ろうということを行っています。
そうしたことを背景に、ISDSにからむ国際紛争調停の数が、飛躍的に伸びています。日本がこうした訴訟の対象になるということも考えなければなりません。
神田−−大阪市がこのような時期に、簡単に民営化を進めようとしているのは、とても危険だと言えます。
一方で、国や自治体が自ら民営化を進めるのではなく、市民も知らないうちにIMFなどによって民営化が進められてしまうケースもあります。
岸本−−IMFの介入による民営化政策は、1つのパッケージとなっています。しかも、そういったことは昔の話だけではなく、現在も続いています。
例えばギリシャやスペイン、イタリアなどヨーロッパの債務国がヨーロッパ中央銀行、IMF、債権国などによって、半ば強制的に公的資産の売却を進められてしまうといった状況が生じています。
神田−−財政難に陥った政府が、財政支援の見返りに公的資産の売却、民営化を迫られるというケースは至るところで見受けられます。
もう1つ、現在の状況で考えておかないといけない論点に「人口減少」があります。人口減少を前提とした水道事業の見直しでも、民営化やあるいは広域化といったことがあり、大阪では都構想や府市の水道事業統合などの話も出ました。
奈須−−民営化によるコスト削減が達成できたとしてもその中身は、実際には非正規雇用などで人件費を削減しただけで、質の向上も望めないといったものかもしれません。
広域化についても、いったい適正規模がどれくらいなのかという基準も定かではありません。ニースの場合のように、給水人口が60万人程度であれば適正かもしれませんが、270万人の大阪市が、これ以上広域化して、本当に効率的になるのか、あるいは意思決定の問題はどうなのか、そういったことが、まだまだ不明確であり、多くの問題を抱えています。
これまで広域化で提示されてきた仕組みは、広域連合や一部事務組合など、私たちが直接選挙で選んだ人ではない人たちが、意思決定する仕組みです。民営化の問題で問われているのは、民主主義そのものなのです。
神田−−日本で民主的統治を考える上で、どのような仕組みが求められるのか、あるいはそれに適した事例はあるのだろうかと考えたときに、興味深い事例があります。それは岩手県の矢巾町での取り組みです。ここでは、水道事業の見直しのために、徹底した情報公開と住民主体、住民参加のワークショップを積み重ねています。
また、全国的に見れば、流域の中での水道事業の連携をどう高めていくのか、といったことも興味深い取り組みだと言えます。
大阪のような大きな都市で、水道の質を高めるためにはどうすれば良いのか。「公営」か「民営」かといった二者択一ではなく、現行の公営がベストで民営化はダメということでもなく、もっと幅広い議論が必要です。最後にお二人に意見をお聞きして締めくくりたいと思います。
奈須−−例えば「広域で効率的な経営」と「住民関与がきちんと担保されるガバナンスのある統治機構」、あるいは、少しぐらい非効率的でも住民の監視の目がちゃんと届くのが良いのか、少しくらい監視の目が行き届かなくても経済性を求めるのか、本来そういったところまできちんと考えることが、水道民営化を考える上で必要だと思います。
公務員の給料が高いとか、非効率だとかいう一面的な情報ばかりが表面化していますが、私たちはもっと大切な問題が隠されていることに気づかなければなりません。いかに必要な情報を市民に伝えていくかが重要です。今日の集会もその貴重な一歩だと思います。
岸本−−民主的な統治というものを考えたときに、選挙に行かない人が半分近くもいるのが現実で、果たして水道事業にどれだけの人が関与したいと思うのか、必要な情報が公開されたとしても、どれだけの人がそれを欲するのかという問題があります。こうしたことを考えたときに、水道の問題としてとらえるだけでは、なかなか解決策を見出すのは難しく限界があると思います。
こうした現実を踏まえた上で、民主的統治をどうやって実現していけばよいのか、今そういったことを考える上で、面白いことがスペインで起こっています。
街角や広場で集まった人たちの声が政治に反映されるようなことが実際に起きているのです。そうなったのは、若者の失業率が40%とか50%とか、そういう極端な状況が起きて、大規模なデモが続き、それでも自分たちの声を本当に反映してくれる政治が行われない失望の中で、自分たち自身の政党を、と実際につくられたのが「ポデモス」です。この党は、わずか数年で国政において第3党にまで躍進しています。
水道民営化の問題は、民主主義の根幹にかかわる問題でもあります。私たちは地道な活動を続けるだけでなく、気運をしっかりとつかみ取ることが大事です。ポデモスの広がりは、そういったことも表していると思います。
神田−−「民主化」、「民主的な統治」の重要性が、今日のお二人の話の中で、何度も出てきました。そして、それは皆さんと一緒に築いていくものだということ、また、そのためのヒントも数多く出して頂きました。是非、このことを活かして一緒に実現していきましょう。■