2016年12月01日

北海道通信〜甚大な台風被害と災害補助の状況〜vol.6

AMネット会報LIM81号より

「北海道通信〜甚大な台風被害と災害補助の状況〜vol.6」
白川 博 さん

 北海道では、台風7号(8/16〜17)、11号(8/20〜21)、9号(8/22〜23)、10号(8/29〜31)など、北海道に、一連の台風が猛烈な勢力を保ったまま連続で直撃したことは、観測統計を開始した1889年(明治22年)以降過去に例がなく、各農作物においても壊滅的な被害を及ぼしました。農地・農道などの復旧には今もメドが立っていません。

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<通行止めが続いている国道274号線。日勝峠では複数箇所で道路の損壊や土石流が発生した。増水した沢に基礎部分が削られ、路面が落ちた日勝峠「三国の沢覆道」
(9月3日、胆振管内日高町:帯広開発建設部提供)>


■甚大な台風被害

 今般の台風災害の集中豪雨・強風などにより、89ヵ所の河川氾濫、農地の土砂流入、住宅損壊・浸水被害が発生しました。これまで、北海道内の災害規模では過去最悪と呼称されていた1981(昭和56年)の通称【56水害】の被災規模も大きく上回り、道路及び河川なども含めた被害総額が2,740億円にも上る未曽有の災害状況となりました。

 台風被害による宿泊キャンセルなどの影響が報告されている施設は120件以上(北海道観光局調べ)と、一連の台風被害によって、ライフラインや公共交通網が寸断されたことにより、観光・運輸業界等にもかつてない経済的損失を及ぼしています。

 今般の台風の影響等によって、高齢者や障害者が入居する道内18の福祉施設に大きな浸水被害などが発生しましたが、7割が国の水防法に基づく「浸水想定区域外」であったことがわかりました。また、「想定区域内」であっても、洪水などに備えた避難計画づくりは遅れているため、今後は、北海道の各地で台風の大雨・浸水被害の恐れがあることを「現実」として、想定区域指定の有無に関わらず、万全な防災対策を講じる必要があります。

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<生活道路が一面で冠水し、住宅街を不安そうに手をつないで見つめている親子(8月31日、十勝管内芽室町)>


■収穫目前の農作物被害

市街地のみならず、自然の猛威によって『実りの秋』を奪われた農業・農村地域は、次年度以降の農業経営はもとより、今年の農作物や販売収益などはどうなってしまうのか?
今秋の収穫を目前に控えていた農地・農作物、農業用関連施設においても、惨憺たる被害状況が報告されています。北海道内の農林水産業の被害総額は675億円(うち農業分野は543億円)、被害面積で3万8,927haもの甚大な被害報告となりました。

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<河川氾濫により、農地を超え広範囲にまたがり冠水被害が発生。収穫を目前に控えた玉ねぎが回収不能となり、道路を横断した。(8月30日北見市常呂・日吉地区)>

来春の各農作物の作付に向けた農地復旧には、「客土」と呼ばれる土を入れることが不可欠です。11月中旬頃より土壌凍結が始まることから、現在も農地復旧に資する緊急対策の構築を、国や道に要請していますが、被災から2ヵ月以上経過しても復旧スケジュールのメドが立っていない農地が散見されています。

 また、台風の豪雨の影響によって、土壌含水量が多く農地が乾くことができません。畑地のみならず、大きな影響被害が報告されにくいはずの「牧草地」にも湿害となる『根腐り』が発生し、牧草収穫の遅延と品質劣化の両面で、酪農家の経費増として重くのしかかっています。

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<氾濫増水した影響で、幹線道路の崩落並びに原形をとどめていない「牧草地」(9月1日、十勝管内)>


■「激甚災害」指定での災害補助

国は、北海道を襲った台風を「激甚災害」に指定しましたが、災害補助率は最大で98%までかさ上げされ、被災した農地や農業用関連施設などの万全の復旧対策を進めていくこととなります。
 
 一方、被害を受けた農作物は国の激甚災害の「補償対象外」となります。これは、全国の農業者が任意加入(作物によっては強制加入もあり)できる「農業共済制度(相互保険)」で、農作物が補償されることが大きいと思われます。


■相互扶助の「農業共済制度」

 農業者の「経営セーフティネット対策」と呼ばれる農作物の相互保険制度(農業共済制度)の観点から、生産者や地域JAの取り組みなどをご紹介します。
「農業共済制度」は、農業災害補償法の下で昭和22年、農業者に対して国の公的な、相互扶助の保険制度として設立されました。

各都道府県(地域ブロック単位)の農業者が毎年支払う共済掛金を原資として、自然災害に被災した農業者に対し、被害程度(減収量補償)に応じて共済金が支払われる制度です。(運営資金の約半分は国の公的資金(国庫負担)で賄われる)

 一方で、主力作物である長いも・ニンジン等の野菜・果樹や飼料用トウモロコシなどは原則加入できません。しかし、今般の台風被害により、市場価格の変動が大きい上記作物なども壊滅的な被害を受けたことから、JAグループ北海道では、補償対象外となる各農作物に対して、緊急支援対策を国や、全国共済連合会などに求めることを決議しました。

 「農業共済制度」は、共済金が支払われた場合、翌年度の保険料率(基準単収)が上がります。国の災害保険制度である特性、保険業務上では当然のことと思われるかも知れません。

 一方で、自然災害の猛威には、なす術もなく、ただただ未曽有の被害状況にさらされ、茫然自失の状態にある農業者が多くいます。加えて、次年度以降も、甚大な台風被害以外にも自然相手の農業者には様々な農作物の『減収要因(長雨、干ばつ、日照不足、霜、高・低温被害など)』があることから、今回の一連の台風被害は「特例扱い」とし、翌年の査定に影響を及ぼさない様、粘り強い団体要請が必要となります。

 とりわけ、北海道では、これまで大きな台風被害に直面することがなかった地域・気候条件などに加え、地域農業者の不断の努力こそが、国内外に冠たる最高峰の収量・品質の両面で大きな評価を得てきました。
 
 それが、今般の台風被害によって、先祖伝来の『地力(表土)』が1mも削り取られた地域もあり、当地のプロ農家の言葉にして【半世紀以上もかけ大切に作ってきた農地】が、一瞬にして表土流出に加え、土砂・風倒木の流入などによって目を覆う変わり果てた「姿」となってしまいました。

 そのため、次年度以降も農業経営を諦めることなく、生産現場のプロ農家が意欲的に営農を再開できるためには、地域間レベルのきめ細かな不安払しょくと同時に、国や道、各自治体に対して、1日も早い農地復旧と農業用関連施設などの復興対策要請が今、何よりも求められています。

 被災された皆さんへ心からお見舞いを申し上げると同時に、次年度以降も意欲をもって基礎食料生産を担う農業者とともに一日も早い回復を願ってやみません。■


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「グローバル化、変える時〜未来志向の貿易協定を!」AMネット会報LIM81号(2016年11月25日発行)より

AMネット会報LIM81号(2016年11月25日発行)より

「グローバル化変える時」〜未来志向の貿易協定を!

武田かおり AMネット

◇強行採決されたTPP
2016年11月4日、TPP承認案と関連法案は衆院TPP特別委員会で、自民、公明、日本維新の会の賛成多数で可決されました。なぜ強行採決と言われるのか。手続き軽視といえる経過をまとめてみます。

山本有二農水相は「強行採決するかどうかは佐藤勉さんが決める」と述べ批判を浴びる渦中、JA関係者に対し「農水省に来て頂ければ何かいいことがあるかもしれません」と利益誘導を匂わす、問題発言が再びありました。その他、@SBS米の不祥事(バックマージン)も明らかとなり、日本政府のTPP影響試算の前提条件が誤りだと分かった。試算し直すべき
ATPP協定文の誤訳・抜け落ちが発覚。内容が変わるため正しい協定で再度議論すべき、といった議論から「今国会での承認は拙速だ」と維新を除く野党が反発を強めていました。

上記の理由から当然、議事運営に混乱が生じ、佐藤議院運営委員長が「TPP特別委員会を開く状況に至っていない。与党に努力を求めたい」と同委員会で説明していた“本会議開会をめぐる協議のさなかの休憩時”に、国会の規則を破って一方的に開会。自民、公明と維新の3党で賛成多数となり、衆院TPP特別委で、TPP批准案を強行採決しました。

TPP特別委員会での採決は、野党議員が委員長席を取り囲んで抗議する中行われ、速記録は承認案と関連法案の採決部分の5カ所含む9か所が「聴取不能」の状態。民進党は「何を採決したのかがわからず無効だ」と、採決のやり直しを求めましたが聞き入れられまず、11日参議院に審議入りしました。

衆院通過後は、日本国憲法第60・61条の規定により、参院に議案が送られて30日経過すると「採決なしで自然成立」してしまいます。
今批准することは「この条件までは日本の国会は飲むのだ」と意思表示するようなもの。今後、別の貿易交渉でも譲歩を迫られるでしょう。


◇それでも日本政府はTPP批准するのか?

これまで「我が国が率先して動いて米国を引っ張り、早期発効の機運を高めていく」と日本主導でTPPを進めていくと何度も主張していた官邸は、完全にハシゴを外されました。他国の発言も混沌としています。

11月17日安倍総理は、大統領就任前のトランプ氏と異例の会談を行い、「トランプ次期大統領はまさに信頼できる指導者であると確信」と発言、その数日後「TPPは米国抜きでは意味がない。再交渉が不可能であること同様、根本的な利益のバランスが崩れてしまいます」と記者会見しました。

しかし、その約1時間後トランプ氏がTPP脱退を表明、その後オバマ大統領も、任期中の議会承認を 断念する考えを正式表明しました。

強行採決された11月4日、本来予定されていた衆院本会議が流れ、「パリ協定」の承認案の採決も延期。京都議定書の流れをくみ、日本主導を国際約束したはずのパリ協定は、日本は批准すらできないまま、同日発効しました。
安倍政権は、あまりにも世界情勢を読めないまま、信じたい情報だけを信じ、突き進んでいることが世界中に露呈した結果となりました。


◇日米FTAにつながる二国間交渉の中身

これまでTPP交渉と並行し、各国の交渉が進められてきました。これはTPP本体の協定とクロスし、より複雑化している所以でもあります。中でも、日米並行交渉は日本側のみの約束が非常に目立ちます。

安倍政権が2013年4月に日米で交わした書簡に
「両国政府は,TPP交渉と並行して,保険,透明性/貿易円滑化,投資,知的財産権,規格・基準,政府調達,競争政策,急送便及び衛生植物検疫措置の分野における複数の鍵となる非関税措置に取り組むことを決定」
とありこれだけ幅広い分野が、参加直後に日米交渉で取り組むと決定されたことが分かります。

2016年2月、「保険等の非関税措置に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の書簡」とした日米交渉結果が政府からようやく出されました。

日本側のみ29ページに渡る米国政府に約束させられた内容が書かれる一方、米国側からの約束は一つもないという驚愕の結果となっています。

◇「保険」
アフラックの保険が全国の郵便局で販売されたことを想起させる
「民間の保険サービス提供者に対し、透明性あるかつ競争的な方法で日本郵政への販売網へのアクセスを与えることの重要性を確認」
と冒頭から書かれていることが象徴的です。

◇「透明性」
「政府審議会・諮問委員会において、外国の関係者を含む全ての利害関係者に対し、自国の関係者に対して与えられるものよりも不利でない条件で意見書を提出、会合を傍聴、出席を認めること」とあります。

つまり、日本企業より有利な形で政府の審議会などに「米国企業が日本の食の安全基準や、健康保険への薬の価格・保険収載などに口出しできる」仕組みです。

その他も非常に細かな部分まで約束され、明らかな内政干渉です。これ以外にも書簡があり、詳細な分析と国会での議論が必須です


◇「これから」の貿易協定は

2016年12月号「世界」の首藤信彦氏によると、米国NGOパブリックシチズンのロリ・ワラック氏とコロンビア大学ジャード・バーンスタイン教授が連名で、新しい貿易協定構想を提言しています。(但し、アメリカの国民益が第一という視点との首藤氏の指摘あり)

そこでは、「今後の貿易協定に必ず含まれるべき」として、通貨操作禁止の強制、労働者の権利・環境権の基準化など、「貿易協定から排除されるべき」として、投資家特権・ISDS条項、食の安全等を抑制する条項、金融規制を制限するルール、公共サービスを民営化しサービス部門の規制を制限する条項、政府調達政策への拘束条項などが挙げられています。

また、11月23日朝日新聞に掲載されたピケティ氏のコラム「グローバル化、変える時」は、非常に今後の私たちのあり方も示唆していると感じるため、抜粋、一部要約し紹介します。

「大統領選の結果から学ぶべき教訓は明らかだろう。一刻も早くグローバリゼーションの方向性を根本的に変えることだ。今そこにある最大の脅威は格差の増大と地球温暖化である。…貿易は本来あるべき姿、つまりより高次の目的を達成するための手段でなければならない。

関税その他の通商障壁を軽減するような国際合意は、もうやめにしないか。法人減税による財政ダンピングや、環境基準を甘くして生産コストを下げる環境ダンピングに対抗すべく、強制力ある数値規定をあらかじめ協定に盛り込んでおくべきだ。たとえば法人税率の下限や、罰則を伴うCO2排出量の確固たる目標値を定めよう。なんの対価もない貿易自由化交渉など、もはやあってはならない。

EUカナダのCETAは時代遅れで、破棄すべきだ。内容が貿易に限られ、財政面でも環境面でも拘束力を伴った内容がない。そのくせ「投資家の保護」のためにはあらゆる手立てが講じられ、多国籍企業は国家を民間の仲裁機関に訴えられるようになる。開かれた公の法廷を回避できる。

このタイミングで司法を弱体化させるなど常軌を逸している。優先すべきはその逆で、強力な公的機関を立ち上げ、その決定を守らせる力を持つ欧州検察庁のような組織を創設することだ。今こそ、グローバリゼーションの議論を政治が変えるべき時なのだ。」■


【朝日新聞2016年11月23日】
(ピケティコラム@ルモンド)米大統領選の教訓 グローバル化、変える時
全文はこちらから→http://www.asahi.com/articles/DA3S12671539.html
posted by AMnet at 17:27 | TrackBack(0) | TPP | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする