2017年05月28日

AMネット会報LIM83号より「コメなどの食べ物のタネは誰が作っている?〜種子法廃止」

コメなどの食べ物のタネは誰が作っている?

松平 尚也(AMネット代表理事)

※ヤフー記事「種子法廃止で私たちは何を失おうとしているのか? 〜おコメのタネ採り産地から考える〜」を加筆修正しました。
https://news.yahoo.co.jp/byline/matsudairanaoya/20170503-00070555/



ゴールデンウイークは、農家が全国で田植えを一斉に行う時期。高齢化する農村では、子どもたちが孫を連れて帰郷し田植えを手伝う風景がここかしこで見られます。コメは1粒のタネモミから500粒のコメができるため、中世より1粒万倍日が選日され物事を始めるの最適な日とされてきました。そのコメのタネは誰によって作られてきたのでしょう?

私たちの食卓を支える主要な農作物(米や麦、大豆)のタネは、どの農家にも安定して行き渡るように国が制度の下で支えてきました。こうしたタネは、基本的に農協や専門店を通じで農家に供給されるために販売しているのを見たことがないという人も多いかもしれません。

コメに関しては、毎年タネを買う農家が年々増えていて、70年代に約3割だった種子更新率は、いまでは9割まで上昇しています(全国米麦改良協会調べ)。更新率上昇により良質なコメが食卓に届けられるようになりました。そうしたタネは、実は今回廃止された「主要農作物種子法(以下種子法)」の下で都道府の農業の関係機関が農協や農家が協力して作り続けられてきたものだったのです。


京都でのコメの種採りの歴史
私が住む京都市右京区京北は、京都府有数の水稲採種=タネ作りの産地です。今回はその現場でどういった作業が行われてきていて、種子法廃止で何を失おうとしているのか考えてみたいと思います。

日本では、主要穀物のタネ採りは近世から高い技術と力を持った農家によって行なわれ始め、そこからタネ屋さんが生まれ、国が関与する公的な種子事業は近代以降に始まったという歴史的な経緯があります。

京都府の水稲の採種事業はその後、1912年大正元年に始まりました。この年に初めて種採りする田んぼが設けられて、1950年からは採種指導も行われてきました。1960年には京都府採種組合連合会が設立され、1970年に京都米振興協会に合併されて今日に至っています。

京都市右京区京北地域でも半世紀以上、コメのタネがつくり続けられてきました。現在は40軒ほどの農家が採種部会をつくって取り組んでいます。採種農家の苦労は多く経営も厳しく後継者が育ちにくいといわれます。ここでその現場を少し紹介しましょう。


コメの種採りの苦労
イネの採種では別の品種が混入するのを防止するため、地区ごとに採種する田んぼを分けます。工程ごとの確認も厳しく、きちんと植え付けられ育っているかの確認もあります。穂が出てからも審査を受け、適切な田んぼのみが合格し、収穫の許可が出ます。刈り取りも専用の機械を用意して、最後まで別の品種のおコメが混ざらないように管理されます。合格したタネのみが流通を許されて、厳重に保管されます。

こうした確認や審査は、「種子審査員」が全ての田んぼを確認し、農協や農家の役員が全員で巡回して行われています。この工程でできたタネを購入すると審査証明書が付いてきて、タネが混ざった場合、どの農家で混ざったか追跡できるシステムになっています。

タネは地域の財産
作業や審査の予算の根拠となっていたのが種子法でした。それがなくなると、こうした体制はコストがかかるとされ維持ができなくなることと懸念されています。

その体制の下で地域を振興するブランドも育まれてきました。中には幻のコメとも呼ばれる愛知県の「ミネアサヒ」という標高300〜600mという山間地での栽培に向く小さな地域向けの品種も含まれています。

こうした品種の開発は10年以上の事業となり利益が出るまで時間のかかるものです。種子法廃止で政府が目指す民間参入だけではカバーされない取り組みともいえます。つまり種子法がなくなると、地域ごとの作物の文化が失われる可能性や種子事業縮小による採種コスト上昇が起こりタネの価格高騰の可能性もあり、農家としては非常に不安に感じるところです。

今回、簡単に廃止法案の通過を許してしまった背景には、種子法の下でタネが守られてきた意味が社会の中で十分には知られていないことが影響しているように感じます。

種子法廃止が廃止されたからといってすぐに大きな影響が出るかはわかりませんが、何年後か何十年後かに地域農業や食卓に大きな影響を与える可能性があります。いま何が失われようとしているのか、今後も情報を集めて発信していきたいと考えています。■
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2017年05月27日

AMネット会報LIM83号より「事務局だより〜AMネット活動報告」2017年2月〜5月

RCEP交渉会合が、2月末〜3月頭に神戸で開催。兵庫県保険医協会さんなど、主に神戸の団体と連携し『RCEPに対する国際市民会議(略称:PECRペクル)』神戸実行委員会として、シンポジウム1つ(鳩山元総理、ジェーンケルシー教授が登壇!)、アジアのNGOが登壇する学習会、国境なき医師団インドのゲストを迎えての「薬は誰のものか」映画上映会、と1週間で3つのイベントを行うことが出来ました。東京〜九州まで、超豪華なゲストがスタッフ・参加者として!来られ、情報交換・交流も深めることができました。

日欧EPA、TISA、TPPが米国抜きで進むのか、そして日米二国間交渉…。とても私たちの手に負えなくなってきました。ただTPPが懐かしくなるほど、まったくなんの情報も出ていません(一例では、概要版。TPPは署名前から数十ページだったのが、他協定は2ページ程度しかなく、ほとんど内容が分からない)。

やはり、私たちはじめ市民が「情報公開」をうるさく言い続けたかどうかがこの差ではないか?と、政府に対し、改めてTPPだけでなく通商協定全般の「情報公開」「市民参加」を「市民と政府のTPP意見交換会・全国実行委員会」として近日中に求める予定です。

祝!大阪市水道民営化プラン廃案!ですが、直後に再挑戦を宣言…涙 今回吉村市長は年頭あいさつで「2・3月市会で議会での最終判断を仰ぐ」と発言。まず廃案間違いなし…と思いながらも、最後まで気を抜けず。時間をかけて市会の議論をチェックし、まとめ発信する作業を行いました。ちょうど改正水道法が閣議決定されたこともあり、併せての情報収集・整理・発信の時期となりました。今後、新たなプランが出る前に、市民側の主張をまとめるべく、準備中です。

大阪「都構想」を進めるための「法定協議会」も、公明党の賛成で設置見込み、という噂。そして、秋の堺市長選挙は現職対維新になるようで、維新系の市長になれば、都構想が一気に進む懸念。維新候補はまだ決まっていないものの、関西系の元人気キャスターでは?もしそうなら…といった、噂も聞こえてきます。
水道を主テーマとしながら、今後も大阪での公共の可能性を考え、連携を図ります。
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2017年05月26日

AMネット会報LIM83号より「祝!大阪市水道民営化プラン廃案!が、しかし…」

2017年5月発行、AMネット会報LIM83号より原稿転載

祝!大阪市水道民営化プラン廃案!が、しかし…


大阪市水道民営化プランをめぐる状況
2016年2月、大阪市の水道民営化にかかる条例が再提案されました。同年9月、通ってもいない水道民営化後の運営会社事務所の敷金や工事等への補正予算案(2年間で1億9000万円)が提出されるも非難が続出し、11月吉村市長は異例の議案撤回。混とんとしましたが、2017年3月議会にて、この水道民営化プランは、廃案となりました。

しかし、市会終了後、吉村市長は「改正水道法に基づく民営化」を検討しつつ、府域ワン水道を目指すと表明。近い将来、また新たなプランが出される見込みです。

報道によると、民営化と並行して卸売りだけでなく「末端給水までを企業団が担当、大阪府内の水道事業を一つに統合」「大阪市を除く府内42市町村でつくる、大阪広域水道企業団にルール変更も求め大阪市が加盟する」ことを検討するとし、現竹山企業長を口だけの統合と批判、水道統合を堺市長選挙の争点にする考えです。

しかし、そもそも「大阪府内を一つに統合」「大阪市を企業団に加盟」といった内容は、橋下氏ができなかったこと。状況も全く違う事業体を一つにするのは至難の業です。各自治体が熟考すべき問題であり、竹山堺市長の責任を問うたり、争点化すること自体が的外れです。

また、「水道法改正」が閣議決定され、今国会で可決されようとしています。改正の趣旨は水需要の減少、施設の老朽化、技術者不足等の課題に対応し「水道の基盤強化」を図るためとしていますが、@都道府県が主体となり広域連携の推進、A適切な資産管理の推進に加え、B官民連携(PPP)の推進も含まれており、水道民営化を促す内容であることに、多くの懸念と批判を受けています。

都道府県単位で進められる広域化
水源・距離・施設等々全く条件の違う自治体を、とにかく一緒にすればうまくいくのか?
広域化のメリットが出る地域は、あるでしょう。しかし適正な単位は、都道府県でしょうか?

今なら一つ一つの地方議会で議論する素地が残る水道民営化も、この情勢下、広域化で技術を失う自治体が多数になれば、将来、一気に民営化が進む懸念も捨てきれません。

スケールメリット、給水人口の密度、配水管、事務経費…。それぞれの効果額は?
「広域化すれば、必ず効率がよくなる」わけではありません。まずは、広域化で生まれるメリットに対する分析が必要です。

大阪市水道局の技術は、今後も不滅か?
大阪市会では「大阪市水道局の技術力はすばらしい」「大規模事業体として大阪市の技術力で、近畿のみならず西日本の、特に中小事業体への技術協力は責務」「大阪市にもメリットがある」「そのために研修センターの稼働を高めよう」等、市長はじめ会派問わず共通の認識です。

ピーク時3,000人いた水道局職員は、昨年1,600人、今年は1,500人まで落ち込み、将来1,000人体制を目指す、としています。
しかし、これだけ人を減らして、現場経験を積めるのか?現場経験のないまま、他都市への技術協力や研修は、どこまで可能なのか?
大阪市自身の技術力は、本当に維持できるのか?また、現状のまま民間委託を進めると、現場力を失う懸念、契約にかかる事務コストの増大にもつながり、効率が良いのか大きな疑問です。

水道料金の改定を実施する他都市も増える中、民営化ありきの大阪市水道局は、料金値上げの収支シミュレーションすら出していません。これまでのやり方・市長の提案する方向性で「今後も大阪市水道局に、その技術力を残せるのか?」市民にとってよりよい水道を目指すための、冷静な議論が必要です。■



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