<AMネット会報LIM84号より転載>
国家戦略特区の規制改革は誰のもの
国家戦略特区がはらむ問題点いしだ はじめ(AMネット)
総理大臣の思惑で決定できる制度上の欠陥2014年よりはじまった国家戦略特区。
「内閣総理大臣主導の下、強力な実行体制を構築して、大胆な規制改革と税制措置等を行う、これまでとは次元の違う特区制度の創設」を検討するとして、2014年5月9日の第1回国家戦略特区ワーキンググループ(以降WG)がスタートしました。
このWGの座長は八田 達夫氏(大阪大学社会経済研究所招聘教授、アジア成長研究所所長)ですが、八田氏はWGから上げられてきた事案について諮問する「国家戦略特区諮問会議」の有識者議員を兼務しています。
この第1回のWGの中で有識者の原 英史氏が制度設計について次のように述べています。
「構造改革特区・総合特区制度のいずれも、基本的には、『地方公共団体が提案・申請→国が認める」という枠組み』であったために、『地方のイニシアティブ』を重んじるあまり、国が受け身になって」しまいうまくいかなかった」とし、今回は『総理主導』の特区制度の提案をしています。
「総理を長とする『特区諮問会議』を設置する(特区担当大臣、民間有識者メンバーなどで構成し、議題に応じて関係大臣が出席)」と提案。その原案となっているのは、第6回「産業競争力会議」で有識者議員でもある竹中平蔵氏が示した「アベノミクス戦略特区」のイメージです。
諮問会議で優先課題を提示内閣府のサイトでは国家戦略特区は自治体や民間事業者からの提案をもとに、あくまでも自治体、民間事業者、国の三者が対等の立場で規制改革メニューについて協議し、区域会議、諮問会議を経て規制改革メニューに追加するプロセスを謳っています。
しかし、制度の根底にあるのは総理を長とする民間有識者議員で構成される「特区諮問会議」主導の下に規制改革メニューの骨格が規定され、その規定に沿った提案の多くが事業化されていると言えます。なぜか。それはWGの第2回会議で示された規制改革事例に現れています。
「集中ヒアリング」で取り上げる具体的な規制改革事項(案)が挙げられており、「外国人医師の国内医療解禁」、「有期労働契約期間(5年)の延長」「公設民営学校の解禁」、「農地流動化のための農業委員会の関与廃止」、「保険外併用療養の範囲拡大(評価実施体制の柔軟化等)」など、現在までに実施された規制改革の骨格ともいえる項目が組込まれているからです。
諮問会議では何度となく民間議員より優先的に取り組む課題が提示され、その意図に沿ってWGや区域会議が進められてきました。
自治体、民間事業者からの提案→各省庁を交えた区域会議で規制の解除を検討→諮問会議で事業決定のような構造にはなっていますが、WGや諮問会議で優先課題を提示→自治体、民間事業者がそれに沿った提案を行い、区域会議を経て諮問会議で決定する、という構造になっており、WGの有識者や諮問会議の民間議員と総理大臣の思惑で規制改革が進められているのが実態と言えます。
外国人人材活用は誰のための制度か「外国人材の活用」は規制改革の柱の一つです。上の表は、内閣府が2017年5月に出した、規制改革事項等の活用状況のうち、外国人活用に関する事項を抜粋したものです。規制改革事項として次の3つが挙げられています。
・外国人家事支援人材の活用
・創業人材等の多様な外国人の受入れ促進
・クールジャパン外国人材の受入れ促進
しかし「クールジャパン外国人材の受入れ促進」は、提案自治体や事業者が存在しません。
「規制改革は行ったが活用する事業体が無い」外国人人材に関する規制改革に限りませんが、特にこの分野では民間議員による利益相反の疑いがあります。
諮問会議の有識者議員の一人である竹中平蔵氏は様々な民間企業の肩書を持っています。よく知られているのは「パソナグループ取締役会長」ですが、それ以外にも「オリックス社外取締役」、「森ビルアカデミーヒルズ理事長」、「一般社団法人外国人雇用協議会顧問」をはじめ10以上を数えます。
外国人家事支援事業については、神奈川県をはじめ、東京都、大阪府、兵庫県が指定を受け3都府県で適合事業者が決まり、スタートしています。認定されたのは下記事業者で、株式会社パソナも含まれています。
・株式会社ダスキン
・株式会社パソナ
・株式会社ポピンズ
・株式会社ベアーズ
・株式会社ニチイ学館
・株式会社ピナイ・インターナショナル
外国人雇用協議会の政策提言のポイントこれ自体非常に疑わしいことですが、ことは家事支援人材に留まりません。
竹中氏が顧問を務める一般社団法人外国人雇用協議会(
http://jaefn.or.jp/)は、「政府の政策・制度の改善を実現」を設立趣旨に掲げています。その政策提言のポイントは右の図2の通り。
提言概要の1番目にクールジャパンが提示され
「『クールジャパン』分野では、日本の優れた文化・技術・技能を働きながら身につけたい外国人が存在する一方で、さまざまな領域で在留資格により就労が阻まれている。」とあります。
中でも「『新・高度人材』の受入れ」の項目では「『クールジャパン』をさらに高めていくには、エンジニア、サイエンス、デザイン等、分野を問わず、文化・技術・技能を進化させていくクリエイティブな人材が不可欠であり、世界から予備軍を集めて切磋琢磨する環境を作ることが必要と、唱えています。
「海外の制度も参考にしつつ、現行の高度専門職の在留資格の拡大等により、企業等に所属しないフリーランスの高度人材(「新・高度人材」)についても、受入れを拡大すべき。」としています。
「「外国人雇用相談センター」(仮称)の設置」では、「国家戦略特区の枠組みを活用し、入管局とは別途、国・自治体・民間が一体となった相談窓口を整備し、企業や外国人が相談できるようにすることを提案する。」とあり、現実に「創業人材の受入れに係る出入国管理及び難民認定法の特例」として新潟市、愛知県、広島県、今治市で実現されています。
この団体の会員企業には、株式会社AOKIホールディングス、株式会社アルク、株式会社ニトリホールディングス、株式会社三越伊勢丹ホールディングスなど名立たる企業が名前を連ねています。
国家戦略特区における外国人人材の分野は、まさに外国人雇用協議会の提言に沿ったものであり、この団体の会員企業への利益誘導に繋がっていくことは十分に考えられます。■
posted by AMnet at 18:00|
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