2017年09月11日

北海道通信〜この先の『食と農と環境』の取り組みへ〜vol.9【日欧EPAチーズ編】

<AMネット会報LIM84号より転載>

北海道通信〜この先の『食と農と環境』の取り組みへ〜vol.9
【日欧EPAチーズ編】

白川 博

北海道の白川 博です。今号では、日欧EPA交渉における北海道農業に大きな影響を与えることなどが懸念される乳製品、特にチーズに焦点をあてお伝えします。

○ 日欧EPA交渉「大枠合意」によるチーズ等への影響

欧州からのチーズや豚肉など、輸入農畜産物への関税は大幅に引き下げ、一部は完全撤廃となりました。日欧EPAの「大枠合意」発表以降、国内農畜産物の98%の品目にも上る関税撤廃との見方が強まっています。

そのような状況の中、北海道農業に大きな影響を与えるとされるのがチーズを中心とした乳製品関連で、とりわけ最大の焦点とされたのはカマンベールなどの「ソフト系チーズ」です。シュレッドチーズ・ブルーチーズ以外の「ソフト系チーズ」は29.8%の関税を課し、TPPでも関税が維持されていました。

しかし今回の大枠合意で、低関税枠を設け、段階的に関税を引き下げ、16年目に初年度の2万dから3万1千dまで増量した枠内の関税を撤廃することで合意。TPPを大きく上回る譲歩は、北海道の酪農・畜産関係者に対して、極めて大きな衝撃と強い不安を与える内容となりました。

○ 北海道のチーズ振興と都府県への影響
現在、北海道内には大手乳業や中小のチーズ工房を含め140の施設が点在しており、食や観光産業に対する魅力発信の一翼を担っています。

国産チーズの98%が、北海道産の生乳由来です。
道府県は生乳を単価の高い「飲用乳」中心とし、北海道産の生乳の8割は「飲用乳」ではなく、生クリームやチーズ・バターなどの「加工品向け」に製造することで、国内生産を安定化させ、都府県との「需給安定」のバランスを保ってきました。

しかし、日欧EPAの輸入緩和と価格低下で欧州の乳製品が入ってくれば、北海道産の生乳は「加工品向け」ではなく、現況でも不足しがちな「飲用乳」への転換を余儀なくされます。これまで、北海道以外の酪農家(生乳生産量で約4割を占める)との間で維持されてきた『需給調整機能』が失われるでしょう。

結果、「需給安定」のバランスが崩れ、北海道のみならず、日本酪農総体にも大きな影響を与える問題となります。
都府県の中小規模の乳業メーカーでは、国内競争が激化することで運営が成り立たず、廃業を余儀なくされる可能性なども示唆されています。

北海道産チーズの主流は、カマンベールやモッツァレラチーズに代表される「ソフト系チーズ」です。

 一方、日本人の嗜好性を徹底的に分析し、将来有望な「市場」が見込めるとして、EU諸国が豚肉の「テーブルミート」と並び、虎視眈々と市場開放を求めているのも「ソフト系チーズ」です。

 大幅な輸入増加が見込まれる欧州産の高品質かつ多種多様で安価なチーズと、やっと市場価値が上がってきたばかりの国産チーズ。「すみ分け」対策ができなければ、事実上、価格競争に太刀打ち不可能とされ、それだけ、欧州産のチーズを含む乳製品は脅威と言えます。

○ 欧州の市場開放への対策
欧州には農家所得を支える「直接支払い政策」があり、自国の農業を守り抜く制度・政策にも、欧州と日本では大きな違いがあります。

農家所得に占める自国の補助金割合を「農業支援度」と呼称します。農家の所得のうち補助金が占める割合は、日本が4割弱であるのに対して、フランスは9割以上、ドイツも7割です。つまり、国内の農畜産物が下がっても「所得補償」により経営維持が可能です。

この様な「農家の所得を国策で賄う」国内政策は、農業先進国では常識とされるものです。そうした「裏づけ」があって、欧州では強い価格競争力を維持できているのです。さらに、欧州の生乳価格は、世界で最も競争力があるNZと同水準と言われていることも交渉の強みであります。

一方、仮に国産チーズ並びに乳製品が、欧州並みの政策(補助金等)であればどうでしょうか?生乳品質では「世界最高峰」の厳しい基準をクリア、国産生乳と卓越した技術者の相互シンクロによって、欧州チーズに何ら遜色ない乳製品を生産できることは現段階でも実証されています。

しかしながら、未だ「生産基盤」が盤石でない国内生産量と価格政策の上に、圧倒的な生産量と品数・価格で輸出を目論む欧州とはその差が歴然としています。

○ 今後の「日欧EPA交渉」対策について
 日欧EPAにおける「国内対策」を注視すると同時に、政府が日欧EPA「大枠合意」に至った分野の影響試算の公表が先決です。また、あらゆる貿易自由化攻勢に対し、生産現場への信頼を欠いたままのさらなる市場開放は、わが国の基礎食糧生産の放棄だと、粘り強く訴えてまいります。■
posted by AMnet at 23:47| 北海道通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする