シンポジウム「みらいの水と公共サービス」報告
報告:堀内 葵(AMネット)
2018年2月18日(日)、東京・都市センターホテルにて、シンポジウム「みらいの水と公共サービス」が開催された(主催:全水道会館水情報センター、後援・協力:アクアスフィア、水政策研究所、全水道、アジア太平洋資料センター(PARC)、国際協力NGO センター(JANIC)、AMネット)。
少子・高齢化の進展の中、水道・下水道事業など日本の公共インフラの維持・管理、持続性を確保し、未来へと継承していくことが大きな課題となっており、公共サービスの産業化が叫ばれる中、水道法改正に伴うコンセッション方式導入等の動きが注目される水道事業をテーマに、約200名の参加者が集まった。
基調講演として、東京大学総長特別参与・国連大学上級副学長の沖大幹氏より、
2015年に国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)のうち、水に関わるゴールとターゲットの説明があった。また、水循環の重要性や水の公共性が謳われ「水が国民共有の貴重な財産であり、公共性の高いもの」と明記された水循環基本法の解説がなされた。
沖氏は、SDGsの特徴として「民間の本業を通じた社会貢献」を挙げ、グローバル企業がSDGs達成に向けて、CSRやCSVだけに留まらず、開発援助や環境への貢献を進めていることが紹介された。
続いて、二人目の基調講演として、元パリ水道局長および元パリ副市長のアン・ル・ストラ氏から、パリで実現した水道の公営化についての紹介があった。
パリ市長の選挙公約として、それまで民営だった水道サービスが2010年に公営に戻された結果、組織が簡素化され、情報が公開され、工事の発注もグループ子会社から一般公開に変え、収益も競争力も上がった。
バラバラだったシステムを統合・再構築するなど、技術革新も進んでいる。
パリ市民が水道サービスのガバナンスに参加するなど運営の質も上がり、国連から賞を受けた。
水道にすべて再投資できることで、インフラ投資も増え、料金も下がり、相談センターを新たに作るなどサービスも向上し、雇用も増えた。
100%株式を得て循環サイクルをコントロールでき、予算面からも対応できるので、積極的かつ長期的な視点に立った行動ができる。
環境保全や生物多様性に配慮した水資源確保や、防災予防策など、これらは再公営化されてからの取り組みとのことである。
後半は、トランスナショナル研究所の岸本聡子氏をモデレーターに迎え、沖氏、ストラ氏と森山浩行・衆議院議員(立憲民主党)が登壇するトークセッションが行われた。
森山浩行・衆議院議員(立憲民主党)は、
PFI法・水道法改正により、適切なダウンサイジングができなくなるのではないかと指摘。
古い管を入れ替えるタイミングだからコンセッションが出てきたのであり、水道料金として市民が負担し続けることになる。民主的に住民の声を入れて意思決定をしていく必要性を強調し、水道法改正の結果としてコンセッション(公共施設の運営権を民間事業者に委託する制度)が検討されていることへの警鐘を鳴らした。
沖氏から、
日本の事業体の問題として、必要なコストを価格に転嫁できていないこと、つまり適切な価格が設定されないことが問題、民か公ではなくどのような制度が良いのかを議論すべき、という提案があった。
ストラ氏からは、
民間企業が公的サービスに参入する理由は利益を得ることであり、公的サービスの市場が企業に利益をもたらさないなら魅力はないこと、しかし、パリの水道再公営化を皮切りに、他の中規模の町でも再公営化の流れや民間企業との契約見直しが起こっていることが紹介された。
最後に岸本氏から、民営化の問題点について世界中のNGOや住民組織の報告を参照してほしいこと、民営化の先進国と言えるフランスやイギリスで今何が起こっているかをしっかりと知ってほしい、という呼びかけがあり、4時間に渡るシンポジウムは終了した。