AMネット会報LIM88号より
可決した「PFI法」改正と「水道民営化」
文責:AMネット事務局
英国で誕生したPFIは「より効率性の高いインフラ整備手法」の一つとして広がり、1999年、日本でもPFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備の促進に関する法律)が施行。
この2018年6月、PFI法改正法案が可決し、10月に全面施行と政府は決定、PPP/PFIを強力に推進する姿勢を示しました。
■PPP/PFIとは?
『PPP』は、官民が連携して公共サービスの提供を行うスキームを広義に指します。
『PFI』は、「公共施設等の設計、建設、維持管理及び運営に、民間の資金とノウハウを活用し、公共サービスの提供を民間主導で行う」ことで、効率的かつ効果的な公共サービスの提供を図る、とされています。
『コンセッション』は、PFIのスキームの一つです。
施設の所有権を移転せず、民間事業者に事業の運営権を長期間にわたって売却します。施設と、運営を分けることから『上下分離方式』とも言われます。
(PFIの手法にはコンセッションの他、BOO,BOT,BTO…等、建設・所有形態により様々な種類があります。)
これらの手法は「完全民営化」ではないから、民営化ではない、と一部の推進派は主張しています。しかし、例えば完全民営化された水道はイギリスだけであり、世界中で失敗している水道民営化の手法の多くは、PFIです。
完全民営化し施設等の資産を持てば、固定資産税の支払いも必要となり、撤退も困難です。
これらは、「完全民営化より、民間事業者にとって都合がよい」手法であり、「利益は民間へ、リスクは行政へ」と国際的に批判されている手法です。
■イギリスは「PPP/PFIを反省する時代」へ
英国の代表的なPPP請負会社であり、英国第2位のゼネコンであったカリリオンが2018年1月倒産しました。カリリオンは病院や道路の建設を手掛けるほか、刑務所の保守管理や学校給食の提供等、約450件契約していました。倒産を受け、これらの公共サービスに支障が生じないよう、急きょ対応に迫られたほか、株も所有しており、イギリス政府に大きな損害がでました。
同月、イギリス会計検査院(NAO)と、EU会計検査院(ECA)は、
「PFIでの入札価格は40%割高であり、コスト削減効果もなく、透明性も悪化」
「問題点が改善するまで、PPPを広い分野で集中的に使うべきではない」
「建設に予想以上のお金がかかるうえに、工期も遅れる」
といった、PPP/PFIに、批判的な報告書を出しました。
実は、これまでも何度もイギリス会計検査院は「PFIは割高」と報告しており、フィナンシャルタイムズ紙ですら批判的に報道しています。水道の再国営化への賛成は、世論調査でもずっと7割を超えています。
PFI先進国であるイギリスでは「PFIを反省する時代」に突入しているのです。
■今回のPFI法改正のポイントは?
@民間事業者に対する国の支援強化
『ワンストップ窓口の創設』
総理大臣が、地方自治体等の行政とのやり取りを仲介。
『助言・勧告機能の強化』
民間事業者の依頼に応じ、総理大臣が基本方針を変更し、勧告・助言を出せるようになりました。
つまり、総理主導で、PFI推進が容易になりました。加計学園でも問題視された「国家戦略特区」も、「総理主導」の制度です。
「特定の民間業者への誘導や、地方公共団体の判断への介入を疑われないよう適正・公正に適用する」とわざわざ付帯決議に入るほど、恣意的な運用も可能になる点も大きな懸念です。
A地方自治法の特例
『利用料金』
料金設定が、実施方針条例の範囲内は届け出のみで、地方公共団体の承認が不要になりました。
現場を持たない地方公共団体が、将来適切な料金設定が設定できなくなり、民間事業者の言いなりにならないか。将来の料金高騰につながるのでは?と懸念します。
『条例を作れば、PFI導入も事後報告で可』
地方公共団体が条例を作れば、その団体の長は「遅滞なく、議会に報告」するだけ。
議会での議論なく、公の施設にPFI導入が可能になりました。
つまり、PFI導入に積極的な市長の元、条例を可決してしまえば、議会での議論すらなく、PFIを進めることが可能になります。総理や首長の影響が強まる一方、地方議会の存在意義、間接民主主義、地方自治の軽視が目立ちます。
『運営権の移転の許可』の条例を、地方公共団体に作らせないことが肝要です。
B水道・下水道の繰上償還時の補償金を免除
(2018〜2021年度までの特例措置)
国からの貸付けを地方公共団体が皆、繰上償還すると、国が予定していた利息収入が不足します。そのため、国に繰上償還すると、補償金を支払う必要がありますが、それが免除されます。
つまりPFI導入時、運営権売却等で得た資金で、水道・下水道事業体は補償金なく国に一括返済できます。これはPFI導入のコスト削減となるため「2021年までにPFIを導入する」インセンティブにしています。
■ほぼ全てのインフラが、PFIの対象に
対象となる『公共施設等』は何を指すのか?
PFI法2条によると、
一 道路、鉄道、港湾、空港、河川、公園、水道、下水道、工業用水道等の公共施設
二 庁舎、宿舎等の公用施設
三 賃貸住宅及び教育文化施設、廃棄物処理施設、医療施設、社会福祉施設、更生保護施設、駐車場、地下街等の公益的施設
四 情報通信施設、熱供給施設、新エネルギー施設、リサイクル施設(廃棄物処理施設を除く。)、観光施設及び研究施設
五 船舶、航空機等の輸送施設及び人工衛星(これらの施設の運行に必要な施設を含む。)
六 前各号に掲げる施設に準ずる施設として政令で定めるもの
つまり、小さな施設からライフラインの水道まで、ほとんど全てのインフラ・公共施設がPFI法の対象です。一方、対象外は「各事業の所轄部局で定める」もののみです。
民間事業者の参入要件は、外資の規制もなく、非常にハードルが低いものになっています。
また、「契約で定める」内容が非常に多いことも大きな懸念です。
所轄する地方公共団体が、多国籍企業と対等に、膨大かつ詳細な内容まで、きっちりと契約を提携し、使いこなすことができるのか。外部アドバイザーの言いなりになるしかないのではないのか。頼りになるアドバイザーは、どれほどいるのか。
政府は地方公共団体に、大きな責任を押し付けていると言わざるを得ません。
■政府主導で進められるPFI
2015年、内閣府は『多様なPPP/PFI手法導入を優先的に検討するための指針』を発表しました。
そこでは、人口20万人以上の地方公共団体に対し、公共施設等の方針の見直しに当たって「PPP/PFIを優先的に検討すべき」とする指針がだされました。具体的には、
@PPP/PFIが適切か否かの検討を「優先」
A外部のコンサルタントを活用し、コストを算定
Bその結果、導入しない場合は「PPP/PFIを選択しない合理的な理由」をインターネット上で説明せねばならない
その他にも、
@PPP/PFIに詳しい職員の養成
A住民・民間事業者への啓もう活動
B産官学・金融機関で構成する地域のPPP/PFI案件の形成能力の向上のための『地域プラットフォーム』の設置
C民間事業者からの提案を積極的に求める
D民間事業者の高い収益性の確保に努める
など、PPP/PFIを普及させるべく、地方公共団体に強要しています。
このような状況の中、今回のPFI改正法が可決し、よりPPP/PFI導入を誘導し、進められることとなりました。
実は、内閣府はすでに、PFI導入可能性の調査等を、国が全額負担し実施しています。内閣府が委託しコンサルタントを派遣するこの事業は、「上下水道コンセッション事業等導入に係る検討に要する調査」や、「地域プラットフォーム形成支援」、実際の具体的事業、専門家の派遣など多岐にわたります。
そもそも政府が求めていた公共施設等の総合管理計画は
「長期的な視点に立って公共施設をマネジメントする」ため、であったはずです。
しかし今や目的は「民間事業者にとって魅力的なPFIをどれだけ増やせるか」であり、公共施設等の適正な運営のための議論から、大きく外れています。
■日本で始まっている外資参入のPFI
浜松市の下水道事業は、外資水メジャーであるヴェオリア他、オリックス等6社でPFI契約が2018年4月スタートしました。
PFI導入にはVFM(※)が高いことが求められますが、先の国会質疑によると、VFMの算定根拠すら、ヴェオリアの企業秘密だとして、市は答えませんでした。VFMが高いからと、PFI導入したにも関わらず、です。
※VFM(バリューフォーマネー)…総事業費をどれだけ削減できるかを示す割合。PFIの実施の検討には、VFMの有無が評価基準となり、高いほど良いとされる。
また、この契約書には秘密保持義務があり、
「契約に関する情報(本事業を実施するうえで知りえた秘密を含むが、それに限られない)も相互の承諾がなければ、開示してはならない」
とあります。「限られない」ということは、今後様々な秘密が生まれ議員すらチェックできない、まさにブラックボックスが生じます。
契約内容や財務他の「情報の不透明」な事例は、民営化失敗した多くに見られます。海外事例を参考に、始まったばかりの日本版PFIで、「契約内容が不透明」な事例が早速発生した、ということです。
今も浜松市は上水道のコンセッション導入を検討中です。しかし、VFMは1〜4%とわずかであり、コンセッションありきで進めていることが明らかです。(内閣府HPによると、VFMの過去実績は10%以上がほとんどですが、浜松市の下水道のVFMですら、7.6%しかありません)
■水道民営化は避けられないのか
今回のPFI法改正は、水道に限らずすべての公共施設が対象です。その中で特に、PFI導入調査へと補助金で誘導し、政府目標が定められ、同時期に水道法改正で「コンセッションが選択肢の一つ」になるよう、強力に推進されているのが上下水道です。
※PFI法改正による政府の目標は「水道6件、下水道6件、文教施設3件、国際会議場施設等6件」。
水道6件は国会答弁等から、宮城県・宮城県村田町・浜松市・静岡県伊豆の国市・大阪市・奈良市を想定している模様。
今回の水道法改正法案には、「国・都道府県・市町村の責務の明確化」など基盤強化に必要な事項がある一方、24条『官民連携(PPP)の推進』が潜り込んでいます。
『広域化の推進』
また今回改正案に入っている広域化にも、注意が必要です。広域化された場合、企業団(一部事務組合)が水道事業を運営し、構成団体の自治体から若干名選出した議会が可決します。一般的に、一部事務組合で事業の中身について話し合われることは、ほとんどありません。議会は年に2~3回、予算決算の承認程度の議論しかない一部事務組合がほとんどです。
つまり広域化すれば、議員・市民から遠くなり、議会が形骸化した後に、広域な範囲を一気に民営化される懸念があります。
また、水は「運ぶコスト」が一番高く、広域化のメリットを出すのは簡単ではないことも留意すべきです。
今の国会情勢のままであれば、秋の国会で水道法改正の可決は残念ながらほぼ避けられません。
しかし、水道を民営化するかどうかは、各地域の議会の承認が必要です。各地状況を踏まえ、本当にPFIを導入すべきなのか?それぞれの地域で、丁寧な議論が必要です。■