2018年10月08日

農業政策(産業政策)があっても、「農村政策」(地域政策)が欠けている!→北海道通信 〜この先の『食と農と環境』の取り組みへ〜vol.13 【北海道で農業をやること】コミュニティ編

AMネット会報LIM88号(2018年8月発行)より

北海道通信
〜この先の『食と農と環境』の取り組みへ〜vol.13

【北海道で農業をやること】コミュニティ                                白川 博


北海道の白川 博です。

今号より【北海道で農業をやること】のテーマで、個別具体的にお伝えできればと、今回は、農村地域のコミュニティについて報告します。


○【農村地域の「コミュニティ」】の課題について

 北海道に限らず、国内各地に点在している農村地域では「限界集落」と呼ばれるなど、農業人口の減少に歯止めがかかりません。生産現場を持続的に展開するために山積する諸課題の解決策が、歴年にわたって提起されています。


その中でも、農村地域の「コミュニティ」が日本農業に対する大切な役割と人格形成を担っていたことが有識者の研究などで明らかになってきました。



○ 農業政策だけでなく「農村政策」を!

 政府や農水省では兼ねてより、農家の「生産力の向上」などに資する様々な施策や取り組みがなされてきました。直近では、ICTやGPSの高性能機器をトラクターや作業機などに搭載した「スマート農業」で農業人口の減少に対応する動きが加速しています。


しかし、農業政策(産業政策)があっても、「農村政策」(地域政策)が欠けていることが今日の日本農業の危機的な状況を誘引していたとの課題は、未だ解消されずに横たわったままでした。



○ 【農村地域の「コミュニティ」】とは?

 農村地域の「コミュニティ」とは、地域に住む農業者・それ以外の方々との相互理解のもとで、「自治力」を連携しながら営むことに尽きると思います。


農業・農村が持つ『多面的機能』とは、例えば国土保全・治水、土砂流出防止などの効果であり、それらが大きな役割を果たしていることを農業関係機関・団体は提唱するようになりました。


農業生産を営む農家が生み出すのは、農産物だけではありません。

上記の多面的機能だけでなく、例えば、美しい田園風景を維持する『景観保全』、加えて土や作物の温かみに触れることで、本来の『人間らしさ』を取り戻す効果・効能が生産現場にはあることが科学的に実証されています。都会の生活では体験しにくい「安らぎ・癒し」を農業体験できる場所は、昔から変わらず農村地域に存在していました。



○ 始まっている「コミュニティ」】対策

 現在、北海道では札幌市に人口集中が進む一方、地方に住む人々が知恵を出し合い、自分たちで農業をはじめとする地場産業の振興のみならず、地元の商店街を積極的に利用することで、「地域完結型」となる共栄・共存策に取り組んでいます。


また、農村地域の「コミュニティ」の大切さを体感するため、地元文化の継承などを目的に、お祭りや収穫感謝祭を住民全体で企画・立案し、農畜産物の格安販売や加工品の展示即売・収穫体験などの各種イベントを通じて、農村地域の良さを粘り強く伝えていこうとする自治体が本当に増えてきました。


かつて「過疎地域」と揶揄され、都会の生活に憧れ故郷を離れた若者たちが、再び地元に帰り就職できる雇用の受け入れ先を、率先して展開とする動きも、農村地域から生まれてきています。

まだまだ、安定的な実用には課題が残されているものの、一例として『農福連携』(農業と福祉分野の融合策)というのも、農村地域が果たすべき「コミュニティ」の延長上にある地方都市の大切な生き残り策と考えています。


北海道内の農業体系には、稲作・畑作野菜・果樹・酪農畜産などの分野があり、それらの6次産業化となる商品開発も取り組みも進んでいます。


『平成』が最後と言われる年に、西日本を中心とした甚大な自然災害が発生しました。北海道も7月に一級河川の石狩川の氾濫を招いた豪雨災害に見舞われました。


茫然自失となる農業者と地域住民の皆さんに心からのお見舞いを申し上げながら、本当に自国で食料生産ができなくなるかも知れない危機感を痛感した年回りであります。改めて、北海道から【農業をやること】の意義と、農村地域の「コミュニティ」の維持が大切であることを皆さんとともに共感できればと心から願ってやみません。■

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北海道通信〜この先の『食と農と環境』の取り組みへVOL.12 「種子法」をめぐる動き編

AMネット会報LIM87号(2018年5月発行)より

北海道通信
〜この先の『食と農と環境』の取り組みへVOL.12 (「種子法」をめぐる動き)

白川 博

北海道の白川 博です。
今号では、201841日に廃止となった主要農作物種子法(以下、「種子法」)などをめぐる動きを中心に報告します。


○ 【「種子法」廃止をめぐる動き】について

 「種子法」の廃止は、政府が200611月策定した『農業競争力強化プログラム』中の「関連8法案」の一つとして提起されたことに端を発します。

とりわけ、「米・麦・大豆」の種子に特化し、都道府県に生産及び普及を義務付けてきた種子法が廃止されると、日本の伝統的かつ大切な種子の研究育成が先細るばかりでなく、外資も含めた民間企業にも知見(情報)を提示と明記されており、当時から大きく問題視されていました。


 そのような渦中で、20174月、十分な審議時間を取ることもなく、前述の「関連8法案」の中で一番初めにスピード可決・成立し、種子法廃止が確定しました。


 種子法が廃止されると、食の豊かさや生物多様性を失うでしょう。今後、種子の寡占化(独占)が進み、全世界規模の致命的な病害虫などがまん延した場合、日本の農業・農村が壊滅的な危機となり、危険な状況を招きます。


○ 【都道府県単位の「種子法」】について

 これまで「種子法」を法的根拠として、果たすべき「役割」と「予算」を都道府県ごとに定めていました。

「役割」は、都道府県JA及び普及センター、農業試験場などの公的・民間の専門機関がそれぞれの「地域特性」に根差した作物の良質種子が農家に十分に行き渡るように取り組むものです。従って、それらの運営に不可欠な「予算」の配分や、長い年月かけて行う研究開発の費用も、国が責任をもって担ってきました。


○ 【「種子法」廃止後『種苗法』】の見解について

 政府は、「種子法」廃止法案の可決・成立の際、

「今後は、『種苗法』が担保されているので、品種開発・育成に影響はない」と回答しました。


しかし、のちに有識者の間で条文整理が進められ、『種苗法』第212項及び3項の中に、種子の自家採取が「原則禁止」ともとれる記述があることが判明しました。


また、それらに呼応するかの様に515日、農水省でも種苗法の改正を視野に、農家が購入した種苗の自家増殖を「原則禁止」へ制限強化する意向を示しました。

結果、南北に長く中山間地から平野まで多様な「耕作地」を有する日本農業の地域性を重視した種子生産が事実上、閉ざされることになります。


○ 【「種子法」廃止撤回対策】について @

 そのような渦中で、立ち上がった基礎自治体があります。新潟・兵庫・埼玉の3県は、コメなどの主要農作物の安定生産・供給を目的として、県単位で責任をもつ「独自条例」を制定しました。その中でも埼玉県は、与党県議の「議員提案」でありました。

さらに、先月4月末までに東日本の稲作地域の県議会・市町村議会の「意見書採択」が60件以上も寄せられています。また、野党6党による「種子法復活法案」も国会に提出され、終盤国会での農政論議が進められていく予定となっています。


 前述の3県に続き、当地・北海道においても「独自条例」制定の動きが期待されましたが、新たな「ルール作り」に向けた要綱・要領を定める考えを示しただけで、具体的な期日や方向性などが示されず、道民各層から不安視する声が相次いでいます。


北海道農業は、冷害と戦ってきた長い歴史観があります。

また、広大な農地の気候及び土質の違いなど、道内でも生産環境は異なるため、多種多様な品種開発を継続する必要があります。


 また、国の基礎食料生産とは利益追求型の民間企業だけで到底担える仕事ではありません。

将来に渡り優良種子を安定供給する都道府県の果たすべき「役割」と「責任」は大きく、今後も粘り強く消費者理解の醸成などを目的として、官民一体となって取り組むべきです。■

posted by AMnet at 14:32| 北海道通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする