【大阪市会に陳情を提出しました!】
大阪市水道局では、PFI管路耐震化事業への議論が始まります。
水道事業全体を民営化するわけではありませんが、資産の65%を占める水道管の更新事業へのコンセッション導入が検討される状況になっています。
下水道は、数年後コンセッション導入を予定しています。
私たちは、「これ以上、行政は現場を失ってはならない」と考えます。
対処療法としての『官民連携の導入』ではなく、その根本的原因の分析をすることによって、市民に歓迎される公営水道となることが求められています。
そもそも、これまで進められてきた業務委託の「トータルコスト」が下がっているのかも疑問です。
陳情とは思えないほど長くなりましたが、ぜひご覧いただき、拡散いただけると幸いです。
<陳情はここから>
大阪市会議長 様
「改正水道法の適用によるPFI管路更新事業と水道基盤強化方策について(素案)」
および「大阪市下水道事業経営形態見直し基本方針(案)」に関する陳情書
【陳情趣旨】
これまでに発表された「改正水道法の適用によるPFI管路更新事業と水道基盤強化方策について(素案)」(以下「素案」という)および「大阪市下水道事業経営形態見直し基本方針(案)」(以下「案」という)について、以下の通り陳情いたします。
1、素案では、「局職員のマンパワー不足による管路更新ペースの限界」を課題とあげ、「ここに民間事業者のマンパワーを充てる」としています。しかし、水道設備は欠かせない公共インフラです。全体の約65%を占める管路は重要資産であり、その管理運営には長期的視野が必要です。
下水および公営水道事業の問題解決に当たっては、対処療法としての『官民連携の導入』ではなく、その根本的原因の分析をすることによって、市民に歓迎される公営水道となることが求められていると考えます。
2、素案では、管路更新のスピードアップ化(倍速レベル)を目指すとしていますが、管路更新のスピードは施工路線の現場環境※に大きく左右されます。従って、単純に人手をかけたからと言って、比例してスピードアップできるという性質のものではありません。
※水道工事は道路開削を伴い、地域住民の日常生活や商業活動において広範囲に支障が生じやすい。そのため工事施工には十分な「住民理解」が必要となる。
また最近の建設業界は、優秀な技術者が東日本へ流れ「人材不足」が叫ばれており、安価な賃金では人材を確保できません。道路工事に必須である保安要員(ガードマン)が不足し、工事が行えない事態すら起こっており、素案の実行可能性については慎重に検討する必要があります。
3、これまで自治体同士の災害協定を超えて、日本全国の公営水道事業体は大災害時に助け合ってきました。
しかし公共の利益のための公営水道事業体同士の相互支援体制と、営利目的である民間事業者との整合性を、各自治体はどう判断するでしょうか。一方、大阪市の民間事業体は、他自治体への支援をどのような基準で判断するのでしょうか。
特に「官民連携後はあらかじめ実施契約を締結」することで対応するとなっていますが、災害規模も被害状況も予測できない災害対応に対して、どのような契約が有効なのか大いに懸念されます。民間事業者自身も被災していることも想定される中で、契約履行の強制力がどのように担保されるかも甚だ疑問です。
4、近年、日本では人口当たりの公務員数が先進国の中でも最低レベルとなるまで、人員削減が進められました。大阪市も同様に民間委託を進め、公務員を減らしてきた結果、市民サービスの質も低下しています。また業務委託による、現場の技術水準の低下も顕著です。
「ヒト」も「現場」も持たない状態で、「技術力」だけが維持できるとは考えられません。
大規模自治体の責務として他都市への技術提携が必要とされる大阪市において、まず自組織での技術継承をしっかりと確保していくことが必要だと考えられます。
5、これまで進められてきた業務委託の、トータルコストが下がっているのか疑問です。
委託費だけでなく「新たに発生した業務の人件費」「委託先の倒産・契約不履行・業務上での何らかの失敗(例えば個人情報の漏洩など)が生じた場合、最終的には対応を強いられる行政の潜在的なリスク」など、トータルでのコストとして、差引きでどれだけのプラス効果が生じたのか、計算されているのでしょうか。
PFI・業務委託といった形態を問わず、民間に業務を委任しても、行政の担う仕事は0にはなりません。契約前には、契約書の作成や締結に向けた調整交渉等、契約締結に関わる業務が必要となります。また業務開始時には、業務内容の説明または引継ぎ、委任期間中には内容のチェック、時には契約書に記載のない事態への対応、そして終了時には業務の結果、成果物等の確認、といった形で、委任前に無かった業務が「新たに発生」します。
素案では、職員削減については『人的資源の創出』として具体的な数字があげられていますが、逆に職員増加は『工事品質モニタリングが別途発生』のみで、その人数規模も不明です。また、工事品質以外の新規発生部分や潜在リスクには触れられておらず、十分な考証がなされているか、検証が必要です。
6、素案(第1章1-4)に「水道局職員増員で管路更新ペースを倍速」する場合、給水原価最大約5円/m3(約200億円のコスト増)の値上げで行えると記載されています。これは大阪市の一般市民の水道料金の約3%でしかありません。
公営水道事業の課題解決策として、官民連携手法を導入するのではなく、適切な範囲で水道料金の値上げを行うことは、現実的な解決手段と言えます。吹田市も実施(平均10%の値上げ)されており、水道料金の値上げは適切な情報開示と丁寧な対話を重ねた上、住民自身が納得して負担することは、民主主義的手続きに沿った解決策の一つだと考えます。
7、管路更新ペースを倍速させ、水道基盤強化のための素案であるにもかかわらず、素案(第2章2-6-1,2-7)では、局職員増員で倍速にする場合と、PFI等の手法の比較がされていません。課題解決のためには、公営で改善・改革するプランも比較検討すべきです。
8、PFI先進国であるイギリスも「PFIを反省する時代」です。
世論調査で再国営化支持は70%を超え、2018年10月英国政府は新たなPFI契約をしないと発表しました。英国・ヨーロッパ会計監査院も「通常入札より40%割高」等指摘し、2018年1月英国第2位の建設・PFI請負会社であったカリリオン社の破たんで、公共サービスに多大な影響を与えました。
PFI方式は「リスクは行政に、利益は民間に」と言われ、結果的に市民のためにならないとの批判が国際的に高まっています。
9、ISDSビジネスと揶揄される外資による提訴で、行政が巨額の賠償金を支払うリスクが高まっています。
一例として、TPP11の「投資財産」は「企業、株式、債券、派生商品、許認可等の権利、有体・無体・動産・不動産も問わない資産全て」等、非常に広範です。大阪市の政策変更により、これらを所有する海外投資家が「経済的な期待価値を変動させる政治的行為」と判断すれば、ISDS提訴の対象となりえます。
つまり、公的管理から離れるほど、海外の投資家からISDSを使って提訴されるリスクが高まります。
TPP11以外にも、国際投資協定の締結は今後も増えること、ISDS提訴の数は年々増えていることからも、民営化のみならず、くれぐれも民間参入は慎重にすべきです。
(注:参加国(TPP11で言えば、例えばカナダやシンガポール)に子会社があれば提訴可能)
【陳情項目】
1. 「改正水道法の適用によるPFI管路更新事業と水道基盤強化方策について(素案)」および「大阪市下水道事業経営形態見直し基本方針(案)」の審議は、本素案及び本本案が採択され実行された場合に生じる広範且つ長期的な影響を市議会として十分に考慮の上、長い目での大阪市民の利益を踏まえ慎重に議論を進めること。
2. 本方針及び本条例案の採否に関わらず、市議会として下記の情報及び分析を当局に求め、市民に公開すること。
1)大阪市水道の現状課題の分析
@ 局職員のマンパワー不足による管路更新ペースの限界と挙げられているが、その課題をいつから認識していたのでしょうか?
A 局職員のマンパワー不足に陥った原因を局はどのように分析しているのでしょうか?
B 局職員のマンパワー不足の課題に対しどのような対処をしてきたのでしょうか?
C 民間参入によりヒトと現場を損失するなかで技術力を保てるのでしょうか?
D 過去5年間(平成24年〜28年)の92%にも及ぶ1,117件の不適正工事について、報告書では原因の一つとして、職員の施工管理や知識習得の不統一を課題としています。これから再発防止に取り組むと発表した直後の管路更新事業のPFI導入は、不適正施工の反省どころか、あまりに無責任ではないでしょうか?
E 技術力の低下とともに市民サービスが低下していると、認識しているのでしょうか?
F 【陳情趣旨】第5項のトータルコストでの費用対効果の検証は行われたのでしょうか。
2)素案における「大災害時の他自治体等との連携及び相互支援の具体的な計画」
@ 公営水道事業体同士の相互支援体制と、民間事業者と各自治体との整合性をどう判断するのでしょうか?
A 自治体組織ではない事業者が大災害時にどのように他自治体と連携し、相互支援を行うのかの具体的スキーム及び計画を提示願います。
3)素案における課題について
@ 水道料金を値上げすることを検討しないのはなぜでしょうか?
A 整備事業費等の増額分の捻出元を提示願います。
B 官民連携手法の比較に「整備事業費等の増額分を利用し水道局職員の増員した場合」と「水道局職員で管路更新ペースを倍速する場合」の提示を願います。
C 各自治体において業務委託の査定額が低いため、契約が不調になっています。今回の導入にあたり、過去の業務委託料が適正であるかの分析はされたのでしょうか。
D ISDS等で、外資に提訴されるリスクを検討しているのでしょうか。
水は生活のもっとも基本的かつ不可欠なインフラであり、水へのアクセス(安価にいつでもだれでも利用できること)は大阪市民の生活にとって欠かせないものです。十分な情報公開のうえ議会での慎重な議論を進めます。
以 上
2019年5月23日
【陳情代表者】
大阪の水道を考える市民の会
【賛同人】
樫原正澄(関西大学教授)
仲上健一(近畿水問題合同研究会 理事長)