2019年09月12日

G20サミットに市民社会の声は届いたのかー先進国の閣僚や首脳たちだけで、世界のルールを決めるのはおかしいー

「先進国の閣僚や首脳たちだけで、世界のルールを決めるのはおかしい」

2019年6月28・29日のG20大阪サミットに併せて、国内外、さまざまな市民社会側の取組がされました。

どういった取り組みが、どんな立場でされたのか。ぜひご覧ください!


AMネット会報LIM92号(2019年8月発行)より記事紹介


G20
サミットに市民社会の声は届いたのか
 


堀内 葵(国際協力NGOセンター アドボカシー・コーディネイター/AMネット理事)


6月29日(土)、大規模な交通規制や公立幼稚園や小中学校の臨時休業、企業活動の自粛要請など、人々の生活に大きな影響を及ぼしたG20大阪サミットは、自由貿易の推進やイノベーションを通じた世界の経済成長の牽引と格差への対処、環境・地球規模課題への貢献などを記載した「G20大阪首脳宣言」と17に上る付属文書を採択して閉幕した。


このG20大阪サミットに向けた市民社会による活動は、おおよそ3つの「立場」で整理できる。


一つ目は、G20サミットで議論される課題に対し、市民社会の「立場」から政策提言を行うものだ。G20諸国の市民社会を中心に、「C20」という枠組みがつくられ、2013年のG20サンクトペルブルグ・サミット(ロシア)以来、議長との対話や意見交換を続けてきた。


G20議長が出席して市民社会との対話に臨む場が、G20サミットの数ヶ月前に開催される「C20サミット」だ。


過去に、ロシアのプーチン大統領、オーストラリアのアボット首相、ドイツのメルケル首相、アルゼンチンのマクリ大統領などが参加してきた。今年は、国際協力NGOセンターとSDGs市民社会ネットワークが共同事務局を務める「2019 G20サミット市民社会プラットフォーム」が中心となり、4月21〜23日に東京で「C20サミット」を開催し、G20議長を招待した。


しかし、直前になって外交日程と重なるとの理由で出席が叶わず、代わりに外務副大臣が出席することとなった。


C20による政策提言は、反腐敗、教育、環境、ジェンダー、国際保健、インフラ、国際財政制度、労働・ビジネスと人権、地域から世界へ(市民社会のあり方)、貿易・投資、デジタル経済という11分野からなる個別提言と、全体宣言(コミュニケ)および、「東京民主主義宣言」から成る。


G20サミットに集う各国首脳たちに対し、地球規模の課題には地球規模での解決策が必要であることや、市民民社会と多くの取り残されている人々とともに、多国間主義、民主主義、市民的権利、透明性や公開性などの共通の価値観の重要性を提言している。


政策提言書は、上記の事情により、C20サミットに先立って首相官邸を訪問したC20代表団によって、G20議長に手渡された。



<C20サミットには40ヵ国からのべ800名以上が参加した。スクリーンには、C20政策提言書をG20議長に手渡している場面が映し出されている。>



二つ目は、サミット開催地の市民社会として、地元の「立場」から様々な社会問題を考え、発信する、というものである。


これは本誌でも報告されている通り、サミットに先立つ6月25〜26日に「G20大阪市民サミット」として開催され、最終日には、地に足の着いた活動や日々の暮らしから自分たちの声を首脳会議や世界に発信することを盛り込んだ「G20大阪市民サミット全体宣言文」が採択された。


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<「G20大阪市民サミット全体宣言」が採択>


三つ目は、G20サミットそのものが金融危機や貧困、気候変動・環境破壊、戦争などを世界中にばらまいてきたとして、サミットに反対する「立場」から抗議活動を行うものだ。


G20大阪サミットの首脳会合を前に、大阪・本町から難波にかけて街頭デモが行われ、首脳会合当日には会議場であるインテックス大阪のある咲洲に近い天保山でも200名近くが集まるデモが開催された。



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<G20サミットの地元・大阪では、市民によるデモが開催された>


街頭デモでの集会アピールでは、世界中に住む多くの人々が戦争・占領、困窮と悲惨、地球温暖化と巨大化する災害、独裁政権の下での人権抑圧に苦しんでいること、世界の主要国と自称する19の国とEU、国際機関の首脳が集まるG20はグローバルな問題について解決策を考え出すとされているが、そもそも誰がG20にそのような権限を与えたのか、G20はそのような役割にふさわしい集まりなのか、と問うている。


デモを主催した「G20大阪NO!アクション・ウィーク実行委員会」は、「戦争や占領、温暖化の犠牲になる人々、新自由主義的グローバル化の中で犠牲にされ、搾取されてきた人々を排除して、むしろそのような犠牲を生み出してきた側の諸国が大半を占める会議に私たちは何も期待することはできません」と主張している。


これら3つの立場は、それぞれ立脚点が異なり、G20サミットをどのようなものとして捉えているか、また、どのような方法で働きかけをするかは異なっているものの、「市民社会」からの発信である、という点で共通している。


では、これらの「市民社会」からの声は、どの程度、G20の首脳たちに届いたのか。


一つ目の立場である「C20」は、G20の公式なエンゲージメント・グループ(参画グループ)としてG20サミットに参加しており、政府側の分野別作業部会での発表やシェルパ会合での意見表明、そしてG20議長や外務副大臣への政策提言書の手交が実現している。


これらの政策提言は、G20首脳宣言への反映を目的として行われた。6月29日に国際メディアセンターにて発表されたC20による緊急声明では、教育や国際保健、労働などの分野で一部、市民社会が提案してきた内容が盛り込まれた一方で、環境やジェンダー、インフラ、貿易・投資など、多くの分野で市民社会による提言が反映されなかった。


特に、気候変動では、アメリカ政府によるパリ協定離脱について改めて言及されるなど、市民社会が求めてきた積極的な取り組みは約束されなかった。


なお、「C20」に参加している「環境・気候・エネルギー」ワーキンググループの参加団体は、G20首脳会合の期間中、世界中で気候変動への取り組みやや石炭火力発電への支援停止を呼びかけるキャンペーンを行い、メディアから注目された。


国際メディアセンターにおけるエンゲージメント・グループの取り扱いについても触れておく必要がある。


国際メディアセンターとは、各国のメディアがサミットの取材を行う場所であり、従来のサミットではエンゲージメント・グループにもアクセスが認められ、メディア関係者や記者への個別ブリーフィングや記者会見の開催が行われてきた。メディアにとっても、サミットを多角的に報道する観点からエンゲージメント・グループの参加は歓迎されてきた。


しかし、今年のサミット議長国である日本政府は、エンゲージメント・グループの作業場所を、記者が作業するスペースから5分以上も歩かなければならない隔離された施設に設置し、エンゲージメント・グループによる自由な文書配布を認めず、スクリーンやプロジェクターなど記者会見に必要な設備も準備せず、C20関係者の服装すら制限するという前代未聞の対応を繰り返した。


服装の制限―特定の文言が記載されたTシャツの着用は、G20参加国の出身者に「不快な思いをさせるかもしれない」との理由だったが、実際の文言はいわゆるヘイトスピーチとは程遠いものであったため、C20関係者の抗議と説得により、服装の制限は撤回された。本件は意見表明の自由や報道へのアクセスへの制限が加えられようとした事例として記録し、今後、同様の事態が発生しないよう、政府側・市民社会側ともに今後の教訓とすべきである。


二つ目の立場については、採択された「G20大阪市民サミット全体宣言」を、今後、どのような場で活用し広げていくのかが、主催者である「G20大阪市民サミット実行委員会」によって検討される予定だ。



三つ目の立場については、デモ開催直後に複数の大手メディアで取り上げられ、特に海外メディアの関心が高かったことが特徴的である。


G7やG20サミットなどの国際会議においては、開催地やその周辺の人々がデモを行うことが恒例となっており、特に移民排斥や気候変動交渉などで問題発言を続ける首脳が多数参加するG20サミットにおいても、首脳とは異なった声をしっかりと聞こうというメディア側の姿勢が見られる。

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<「G20大阪市民サミット」では議論の様子をグラフィック・レコーディングという手法で可視化した>


しかしながら、2020年のG20サミットはサウジアラビアを議長国として開催されることや、2021年のイタリア、2022年のインドまでが決定しており、「G20サミットを持続させるな!」や「G20はいらない」という声は首脳たちには届きそうにはないのが現状だ。


来年のG20サミットで議長国を務めるサウジアラビアは、「後見人制度」により男性の従属下に置かれる女性の人権が抑圧されていることや、2018年に発生したジャーナリスト殺害事件、イエメン内戦への軍事介入など、国内外で人権上の課題を多数抱えている。


「C20」が発表した政策提言書においても、腐敗防止やジェンダー平等(特に、LGBTQIの人々の人権保護)が挙げられており、日本も含むG20諸国全体の課題として、継続的に働きかけをしていく必要がある。今後も、市民社会として、それぞれの「戦略」が効果的に機能するよう、3つの立場を組み合わせていかなければならない。■


posted by AMnet at 14:14| G20 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする