中谷氏は、かつて新自由主義や構造改革の急先鋒と言われた経済学者で、最近になって転向を表明、新自由主義との決別を宣言し、この本を著したことで注目が集まっています。
最初はこの本を買ってまで読むつもりは無かったのですが、最近出たばかりの内橋克人氏の『共生経済が始まる』を買ったときに、読み比べてみたいと思いました。
内橋氏は、ずっと以前から新自由主義や市場原理主義に警鐘を鳴らし続けた人、そして中谷氏は、かつて新自由主義の推進者でありながら、今はそれを翻して反対派になった人、この二人の本を読み比べると、何か違いがあるのではないだろうか、また二人のものの見方や考え方の違いがより鮮明になるのではないかと思いました。
そして、この二人の本を読んで感じた一番の違いは、"視線" でした。
内橋氏の著書の中に表れている視線は、社会全体を見渡しながらもその中に住む人や人の暮らし、生活というものへと真っ直ぐに向かうものであり、一方、中谷氏の著書に表れているものは、個人の生活よりもどちらかといえば社会や国レベルの領域に重点が置かれていたように思いました。
社会の全体像の中に埋没させず、一人ひとりに向けられる暖かく鋭い眼差し、そうした視線をもって早くから問題の本質に迫っていたのが内橋氏であったように思います。
中谷氏は、かれこれ10年近くも実は新自由主義や市場原理主義と呼ばれるものが、本当に社会にとって有益なものか疑問を感じていた、と記しています。しかし学者としてそれまでの持論を翻すには相当な準備と時間も必要だったのでしょう。今さらの“ざんげの書”は、遅すぎるとの感もありますが、同著の中には見るべきものも多くありました。
今後の中谷氏の活動に期待したいと思います。(W)

