2011年11月07日

TPPと政府調達 〜TPPによる市民生活への影響・分野別分析〜

みなさま
草稿段階ですが、TPPと政府調達について少しまとめましたので共有させていただきます。
AMネット 松平 kurodaira@rouge.plala.or.jp
TPPと政府調達
 例外なき関税撤廃や高度で包括的な貿易交渉を目指すとされるTPP交渉。その交渉分野は21分野に及び、農産物や工業製品をはじめ、医療や金融、サービス分野、さらに知的財産、投資、政府調達など様々な分野の貿易障壁を無くすことを目的としており、市民生活にも多大な影響を与える事が予想される。今回は中でも公共サービスや地方自治体に大きな影響を与える事が予想される政府調達とTPPを入口に、公共サービスと市民の暮らしへの影響について考える

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引用:日本農業新聞11月2日記事
公共事業 外国企業の参入加速 「相当な困難が」 政府認める

政府調達、TPP、世界の趨勢
政府調達とは、政府機関が購入又は借入によって行う物品及びサービスの調達を意味する。世界の政府調達額は中国・インド・ブラジルなど新興国を中心に急成長しており、年間約30〜70兆円の市場規模に上ると試算されている(※)。その規模の大きさから、最近の多国間・二国間経済交渉においても政府調達が対象にされるケースが増加しており、TPP交渉においても対象となっている。巨大な市場規模を狙って各国が自国企業の利益拡大を追い、相手国の政府調達への進出機会を伺っている現状がある。
(※)WTO 政府調達協定改定へ 全加盟国参加の試算提示 (10月21日)
http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=10146

日本国内に予想される大きな影響として考えられるのは、公共事業への外国企業参入機会のさらなる開放による、国内企業の圧迫だ。TPPに参加すれば、一部公共事業で外国企業が入札に参加できる基準額が大幅に引き下げられ、国内業者の受注が減少する恐れがある(※1)。経済産業省が開放される懸念が大きい測量、設計など技術的サービスについて秋田、宮城など10県の実績を調べた所、外国企業が入札に参加する開放基準額を現行のTPP(P4)が定める750万円(中央政府の場合。現行は2.3億円)まで下げると、新たに開放する事業は1937件で全体(1万4770件)の13%に上ったということだ。測量後の建設など本体事業建設サービスの開放基準額が現行ルールの23億円から米国と同水準の6.9億円まで引き下げを迫られる可能性もある。またこれまでは中央政府機関までが対象であった外資への参入機会が地方自治体にまで広がる可能性もある。そうなれば地方自治体は入札の有無に関わらず関連資料の英文公開が義務付けられ、事務負担の増加も心配される。さらに国際調達件数が増加すると発注時期のずれ込みが起こり、国内企業の減収と競争激化、破綻の増加が起きる可能性もあることが京大の藤井聡教授らによって指摘されている(※1)。藤井氏も指摘するが、日本の建設業界の制度は、アメリカ企業にとっては参入規制に他ならないものであり日米規制改革会議で繰り返し地域要件撤廃という形で要望されてきた。また外資が参入するとPPP(官民連携)が進み、公共インフラの民営化が起こってしまう可能性がある(※2)。外資による建設現場への外国人労働者の活用も要望される恐れもある。
(※1)「TPP加入、建設産業の崩壊招く 建設通信新聞」
http://ameblo.jp/tpp-tekkai/image-10812058246-11071849225.html
(※2)公共事業分野にもTPPやEPAは関係するの?
http://www.kyoryoshimbun.com/cn4/pg199.html

外資参入によって公共事業費削減につながるという意見もあるかもしれない。しかしそこで見過ごされてしまうのは、外国企業がより高い利潤を求めて公共サービス値上げや質の低下が起きる可能性だ。外資参入による公共サービスの値上げが起こる事例は世界で実際に起こってきた。その代表的な事例がアメリカの多国籍総合建設会社べクテルがボリビアで起こした水戦争だ。ボリビア第三の都市コチャバンバの上水道管理権を得たべクテル子会社は水道料金を数倍に値上げし、市民の大規模な反対運動が起こった。しかし当時のボリビア政府は、自国の市民を守る所か軍隊を出動させ、市民側を鎮圧し死者が出る事態まで発展してしまった。さらに信じられない事に撤退を余儀なくされたべクテルは、予想された利潤を失ったとしてボリビア政府を提訴し、2500万ドルの賠償金を政府に請求するという法的対応を行った。
恐ろしいのは、TPP交渉にも外国投資家の利益を守るためのISD条項(投資家対国家間の紛争解決手続き)が盛り込まれていることだ。これにより例えば外国企業が日本に進出した際に、日本の規制や制度が外国企業の利潤確保を侵害しているとみなせば日本政府を訴えることができることになる。実際、NAFTA(北米自由貿易協定)においては、外国企業が国家を訴えるケースが続出しており、TPPが締結すれば同様の事態が起きる可能性は十分予想される。投資家と国家間の紛争解決で最も多く利用されている世界銀行下にある機関ICSID(投資紛争解決国際センター)でも政府調達関連の案件が寄せられている現状がある。

TPPに参加しても実際には外資参入の機会は広がらないのではという声もあるかもしれない。しかしあまり知られていない事だが、実は日本の中央政府機関の一部の公共調達は、すでに外国企業に開放されている。なぜなら日本は多国間で経済交渉を協議する枠組みであるWTO(世界貿易機関)における政府調達協定(GPA:Agreement of Government Procurement)に締約国入りしているからだ。一定金額以上の政府調達を行う場合に「無差別待遇」を約束し締約国企業に対して門戸を開放している。日本―チリEPA(経済連携協定)でも、中央政府による1500万円以上の物品・サービス調達や、6億9千万円以上の建設事業での参入を認めている。
日本で初めてWTO−GPAルール下で参入した外資系企業は、世界の水道民営化を推進してきたフランス資本のヴェオリアだ。ヴェオリアは2006年、「埼玉・広島での下水道の維持管理包括委託2件 を約34億円で受注。ヴェオリア黒船ショックと呼ばれ、「下水道のような国内地場産業に、本格的な外資攻勢の幕開けを示す出来事」と言われた(※)。 下水道の維持管理はWTO―GPAの汚水サービス項目にリストアップされ、3200万円以上の維持管理契約が公開入札の対象となっている。(問題はTPPではこうした参入の基準額が相当程度下がるため、これまで数件程度であった参入件数が数百件まで増える可能性があることだ)
推進派がTPPで狙うのが、アジア・太平洋地域の政府調達市場への日本のインフラ輸出だ。国内の公共調達開放の見返りに、地方の中小建設業者を見放そうとしているのだ。推進派は、TPPというアメリカの傘に入り政府調達の基準を作り、ASEANやWTOなど他の経済交渉でも影響力を持ちたいという目論見もあると言える。世界では中国やインドなど成長著しい新興国の政府調達を狙って覇権争いとも言える状況が続いているからだ。
海外政府調達市場を狙うアメリカも一枚岩ではない。その象徴がアメリカの公共事業に米国製品の調達を課すバイ・アメリカン条項だ。オバマ政権は景気浮揚策として2009年からこの条項を採用したが、国内外から反発を呼びWTO−GAPルールやNAFTA加盟国には基本的に参入を認めている。ただ鉄鋼などの除外項目があることやアメリカ全51州の内37州しか参入を認めておらず明確な規制が存在している。問題は、アメリカが国内に規制を温存しつつ、世界有数の政府調達市場を有する中国がWTO−GAPに参加申請中であるため、市場参入を狙いアメリカが独自のルール(※)を同協定に盛り込もうと画策していることだ。TPPにおける政府調達の基準作りももちろんWTO−GAPも念頭に置いて展開しており、日本もそこに合流を目指しているといっても過言ではない。
(※)WTO−GAPでは建設サービスと切り離して入札する技術的サービスの入札は外国企業に公開されていない。この件でアメリカは見直しを求めている。
 
 もう一度おさらいするとTPPと政府調達分野で問題なのは、日本国内の建設産業や公共事業への影響、外資参入による外国人労働者流入の恐れそして公共インフラの民営化などが上げられる。市民は公共サービス確保に向けてこの分野について考え始める必要があるだろう。

AMネット松平




posted by kurodaira at 06:42| TPP | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする