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TPP署名。でも本当に発効するの?
武田 かおり (AMネット事務局長)
TPP、署名はしたけれど
2015年10月5日に大筋合意、TPP交渉は一応の決着を見ました。11月25日に「TPP政策大綱」発表、2016年1月7日にようやく日本政府による協定仮訳が公開されたものの、約6,000Pに及ぶ膨大な資料です。
1月14日には、TPP対策費3,122億円補正予算可決し、対策・予算のみ進行しています。
2月4日NZで署名式が行われ、各国が年内批准目指すと、日本ではすでにもうTPP発効が決まったかのように進んでいます。
しかし「ISD条項の仲裁判決と、日本での裁判判決とどちらが優先されるのか」という非常に重要でシンプルな質問すら、法務大臣が答えられず何度も国会審議がストップすると言うおそまつな状況です。
1月末の甘利大臣辞職で石原大臣が国会対応できるわけもなく、議論できる状態ではありません。今後、国会批准→締結→発効という順序になるわけですが、原則12か国全ての批准が必要です。
但し、2年超えても無理な場合は、GDP85%以上・6か国以上で発効、つまり日米が批准しないとTPPは発効しません。
米国大統領有力候補ほぼ全員TPP反対であり、その中でもサンダース氏は「私が大統領になっても破滅を招くような貿易協定に署名しない」と宣言しています。
与野党共に見直し、反対表明が相次いでおり、11月大統領選後に審議先送りの声がでています。カナダも政権交代でTPPに懐疑的であり「手順として署名はするが、批准は未定」とくぎを刺しての署名式参加であり、日本ほど前のめりな国はそうありません。
一方、反対の声が大きいとされていたマレーシアでは大多数が賛成の中、署名前に国会承認され、批准する体制が進んでおり、決して楽観視できるものではありません。
市民側の分析から見えてきたTPP
英文テキスト公開後、市民側の分析が進んでいます。市民団体・農業団体・労働組合等が協力し「TPPテキスト分析チーム」も日本で立ち上がり、1月末報告されました。その他情報から現時点で分かってきた懸念の一部をまとめました。
・農産品市場アクセス(2章より)
TPPでは原則関税撤廃であり、現在「例外」を勝ち取ったと政府は言っているが「除外」ではない。
除外は関税撤廃の対象としないということだが、例外では今後撤廃を迫られる可能性がある。
政府は「日本の関税撤廃率は95%、他国と比較して勝ち取った」と言うが、セーフガード含む全面見直しのための再協議を7年後に5か国と行うことが決まっており、7年間猶予をもらっただけではないか(7年後日本だけが農産品全般が再協議対象)。
しかも関税撤廃時期の繰上げ要請があれば、協議に応じる義務もある。更に、農業貿易に関する小委員会が設置され、恒常的に関税撤廃を迫られる仕組みではないか。
・食の安全(7・8章より)
「透明性」の記述があちこちにある。貿易交渉で言う「透明性」とは利害関係者、つまり企業が食の安全基準を決める際に、声を上げることができることを言う。
例えば、食品の表示制度を利害関係者と一緒に考えることになり、各国での制度がねじ曲がる懸念がある。「なんら日本の制度を変更する必要はない」と政府は言うが、変える仕組みが日米並行協議でも決まっている。SPS委員会が設置されるが、リスク分析が中心で、例えばコストベネフィット論で考えるリスクマネジメント等であり、予防原則を排除するやり方だ。
・投資章(9章より)
投資の定義は、会社・株式等、投資家が直接・間接に所有・支配するものとされる。「契約」も入っており投資の境界線が見えづらく、非常に広範。
また「公共福祉目的等の正当な政府措置」はISD対象から外されておらず、例えば「政府の許認可等が正当かどうか」で争える。
また、「企業の期待に添わなかった」だけで提訴されるとの懸念も、それだけではダメだが「公正衡平待遇」かどうかの正当性で争える。「公正衡平待遇」の意味は曖昧で、外国企業勝訴の根拠になってきた文言だ。
これまでの「多国籍企業が訴訟を乱発するのでは」という懸念に対し「濫訴防止策」で大丈夫と政府は言うが、TPP固有の言葉はほぼなく、抑止になっているとは言えない。
そもそも仲裁人の日常業務は多国籍企業顧問弁護士等であり、訴訟が多いほど、多国籍企業に有利な判定を下すほど、利益が出る存在であり、「そもそも中立な判定ができるのか」も問われている。
・国有企業(17章より)
TPPでいう国有企業の定義は「主として商業活動に従事」する「締約国が50%超の株式所有」等の条件。
不明な条件もあり特定が困難だが、数が非常に多く、研究機関含む病院、金融、高速道路・空港、投資ファンド、放送、資源・エネルギー関連、郵便等、幅広く含まれる。国有企業は各国様々な経緯・体制の中で成り立っており、地域の基礎的社会インフラも多く、地域の不安定要素が高まる懸念。
・医療分野(章立てなし)
「特許期間延長」による新薬価格の高止まり、「特許リンケージ制度」による後発薬承認が困難になる問題、加えて「産業上の利用可能性あるすべての技術分野の発明」が特許取得可能となり、診断・治療・手術も特許対象にできる。
「透明性」として、日米交換文書で外国医療関連企業が医薬品・医療機器の保険収載の可否や価格決定する中医協(中央社会保険医療協議会)に利害関係者として口出し可能に。
今後、TPPでは健康保険をそのままおいて、「透明性」の名のもとに新薬を高価なまま販売する一方で、国家戦略特区等で混合診療を進め、民間医療保険の拡販が進むと懸念されます。
・規制の整合性(25章)
米国が提案、交渉を主導した新しい分野。
「各国間で異なる規制措置」の存在がビジネスの障害として、各国の規制措置に対処するもの。これはISD不適用だが「通報」のアプローチにより、規制整合性小委員会において、検討・質問・討議でき、強制力があるものに。今後、日本国内では規制改革会議によって権限強化されていくのではないか。
市民社会の動きなど
TPP協定は「生きている協定」であり、今回の交渉結果で終わりではありません。例えば、TPP委員会が設置され、発効3年以内に協定改定・修正を検討することが決まっています。
政府調達(公共事業など)は、3年以内に適用範囲の拡大を再交渉、国有企業も5年以内に追加交渉といった具合です。TPP交渉優先でストップしていた他協定も今後進んでいくことになります。「透明性」を盾に、利害関係者として多国籍企業が私たちの気づかぬところで、政府審議会等で意思決定に参画していきます。
TPP署名式の会場近くでは、TPP反対デモに数千人が参加し意思表示がされました。
日本国内の活動は現在、協定分析・その内容を広めることを重点とし、さまざまな情報発信・分析がされています。TPP交渉差止・違憲訴訟の会では2/22第3回口頭弁論が、4/11には第4回期日が決まり、現在原告1,977人、会員5,219人と人数もどんどん増えています。あきらめるにはまだまだ早い!■
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