2016年10月04日

北海道酪農・畜産に及ぼす影響‐バター不足の真実‐AMネット会報より「北海道通信vol.5」


AMネット会報LIM80号(2016年8月発行)より
北海道通信〜この先の『食と農と環境』への取り組みvol. 5
清水 敬弘さん

北海道・オホーツク地域の農業団体職員、清水敬弘です。今回は北海道の酪農、特にバターを中心にお伝えします。

○「北海道酪農・畜産」が果たしてきた役割
生乳生産は「品質管理」が大変重要ですが、スーパーや大手量販店で売っている1ℓパックの牛乳は「飲用乳」と呼ばれ、大消費地(首都圏・関西圏)から遠い北海道からも供給しています。

「飲用乳」の他に、生クリームやチーズ、バター・脱脂粉乳などの「加工原料乳」と呼ばれる、乳製品加工の生産にも北海道の酪農生産者は大きな力点を置き、日本国内の「加工原料乳」の大半を生産しています。

一頭の牛から生産される同じ生乳から、製造工程の違いにより「脱脂粉乳・バター・チーズ・ヨーグルト・牛乳・アイスクリーム」などが抽出されています。これほど、多元販売が可能な生産加工品は、生乳以外に見当たらないかもしれません。

実に様々な各用途別の商品価値を見出していく酪農業と、「和牛」に代表される高値取引が続く畜産業を兼ね合わせ、北海道での酪農・畜産はこれまで複合的な主産地形成を続けてきました。


○『バター不足の真実』について@
 ちょうど2年前の平成26年9月頃より、大手各紙や、メディアなどでも「バター不足」(実際は脱脂粉乳も不足)を報じる様になりました。『なぜ(バターだけ)不足するの?』と、お思いの方もおられるかも知れません。

全国的な酪農家の廃業などにより、生乳生産量総体が減少し、夏場の最需要期に「飲用乳」の品不足を補うため、『道外移出(北海道の生乳を都府県に送ることの意)』を行っています。

本来ならバターに仕向けられる生乳が「飲用乳」に使われることで、生乳量が足りなくなり、結果的に「クリスマス需要期」と呼ばれる12月頃にはバターが不足する、業界的な『産業構造』のエラーが発生します。

この問題は、『国内生産量を全国レベルで増大することでしか解決に向かわない』のですが、現況、道外だけでなく、北海道内においても年間200戸ペースで酪農家の廃業が続き、国内総体の生産量減少に歯止めがきかない状態が続いています。
私どもが、「ここままでは日本酪農・畜産の存亡に関わる!」と申し上げているのはそのためであります。


○『バター不足の真実』についてA
 バターは生産過程で『3つ』の分類がされています。
@業務用バラバター(冷凍25s)、A業務用ポンドバター(冷蔵450g)、B家庭用チルドバター(冷蔵200g)です。スーパーや大手小売店に出回るB家庭用バターは、冷蔵鮮度のため品質保持期限が短く、各メーカーの適正な年間供給量が定められているといいます。

 そのため、前述の『産業構造』のエラーに対応するために農水省では、@・Aの「業務用バター(脱脂粉乳も)」の追加輸入を段階的に決定しましたが、皆さんが年間で使うB「家庭用チルドバター」は、決して不足していませんでした。

しかしニュース報道ではBの家庭用バターが不足するかのように伝わったため消費者の「買い占め」が全国各地で発生。内外関係者も困惑する状況でありました。

生乳も『足りないものは輸入すればよい』と消費者感情を逆手に取り、農業団体の解体論が踏み込んで論じていたのもこの頃からでした。一方、牛乳の様に腐敗しやすく、日々・季節ごと供給や需要が変動特性のある商品は、どの先進国でも「国策」によって対策措置を講じています 。

わが国も全国10の指定団体が牛乳・乳製品の需給調整機能を担っていますが、【より活力ある酪農業・関連産業の実現】と銘打ち、「規制改革会議」が指定団体制度の廃止を打ち出しました。

同制度の廃止は、地元JAと酪農振興を続けてきた農業団体解体への序章となります。
私どもは、大手乳業メーカーとの交渉力、合理的な輸送体制による経費減、需給変動の弾力的な対応を可能とし、生産者・消費者に最も合理性のある販売方法をしているのが「指定団体制度」であると自負しています。

政府は、TPP関連政策大綱の検討継続12項目を始め、生乳の指定団体制度などを含む「農政課題」全てを参院選後の論議に先送りしました。そのため、秋の臨時国会に短期間で集中的に取りまとめられると危惧されています。

安倍政権が掲げる『強い農業づくり』や、TPP協定と大きく関連する分野の酪農・畜産の今後の動向を注視しながら、同時に生乳生産を含め国内安定供給と健康増進の両全を担う『酪農王国』北海道であり続けていきたいと切に願っています。■


<これまでの北海道通信はこちらから>
北海道通信vol.1 北海道JAの役割
http://am-net.seesaa.net/article/430972793.html

北海道通信vol.2 北海道農業とTPP聖域5品目の関係
http://am-net.seesaa.net/article/438060983.html

北海道通信vol.3 北海道農業事情
http://am-net.seesaa.net/article/439134227.html

北海道通信vol.4 生乳の仕組み、指定団体制度の役割
http://am-net.seesaa.net/article/442570265.html
posted by AMnet at 14:01 | TrackBack(0) | 北海道通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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