メリットが見えない中、「新たな経営手法」ありきで策定された、今後の水道の経営戦略がどういったものなのか。よろしければAMネットが提出した「今後10年間の大阪市水道経営戦略」へのパブリックコメント、以下ご覧ください。
<参考>
(仮称)大阪市水道経営戦略(2018-2027)(素案)のパブリック・コメントを実施します
http://www.city.osaka.lg.jp/templates/jorei_boshu/suido/0000419095.html
<以下AMネットのパブリックコメント>
「(仮称)大阪市水道経営戦略(2018−2027)(素案)」に対するご意見
1、適正な水道料金で、必要な収入を確保すべき。
大阪市の水道は高度浄水処理などの大規模投資で水質を上げても20年間料金の値上げもなく、かつ大都市で全国一安い一般家庭にやさしい料金制度を取りつつも、今後20年以上の黒字見込みの超優良公営企業です。
しかしこの経営戦略で示されている将来像を達成するにも、「98%の世帯が給水原価割れ」という現状の大阪市の水道料金制度では、残り2%に収支が大きく左右され、安定的な経営が困難です。
水道経営の持続性確保のためには、将来の「水道料金値上げは避けられない」のは、もはや常識です。先日大きく報道された日本政策投資銀行による「水道事業の将来予測と経営改革」にも「水道料金値上げ」は一番に記載されており、優先順位の高さが分かります。
将来のキャッシュフローを安定させる水道料金制度の構築・分析を真っ先に取り組み、試算を公開し、選択肢の一つとして提示すべきです。
2、この大阪市水道経営戦略の目指す将来像の達成には、公営が適している。
「強い公共」「大都市大阪の都市機能」「持続」など、この大阪市水道経営戦略が目標とする将来像を達成するには公営が適しています。にも関わらず、「新たな経営手法」ありきで経営戦略を策定しているがために、あちこちに無理・無駄が見られます。
「経営の自由度が増す」いう漠然としたイメージしかない中、「新たな経営手法ありき」の経営戦略であることは明らかであり、これまでの市会での議論を反映しているのか大きな疑問です。
特に「公営でできる改革をやるべき」という指摘は、すぐにでも実現可能であり、真っ先に「公営で可能な改革」を進めるべきです。
3、職員のノウハウは、「大阪市の水道技術力」そのもの。削減すべきコストではなく、市民の財産です。
いくら最新設備をそろえても、技術力を誇ることはできません。
「施設の維持・管理・運営できる職員がいる」、そして「水源から蛇口までのトータルな運営ノウハウを持つ」からこそ、大阪市の水道は「技術力がある」のです。そのノウハウを持つ職員を「削減すべきコスト」として扱うべきではありません。
大阪市は「国内他都市と比較し職員数が多く、一人当たりの生産性が低い」と分析していますが、日本の公務員比率はOECD諸国(平均約15%)に対し約7%とほぼ最下位(労働人口比)です。
全国的に「水道事業者の技術喪失」が懸念されています。技術継承できないのは、国内の水道事業者の職員削減が進みすぎたことが大きな原因と考えます。つまり、そもそも持続可能な水道に必要な職員数が不明な中で、国内で比較すること自体が適切なのか疑問です。
この大阪市水道経営戦略(P98)にもある通り、「委託化の拡大等により実作業を体験する機会が減少し、ベテラン職員の退職による現場での技術継承が困難な状況」なのは、大阪市自身です。中小水道事業体だけではありません。
4、「直接公共が担うべき業務」への考え方が明確でなく、なし崩しに現場力を失う懸念。
民間に任せても民間企業がやるだけで、職員の仕事がそのままなくなるわけではありません。逆に職員数が減り、発注・管理などの業務が増える一方、「行政が現場を失う」「現場力・技術力を失う」といった不安材料が増えることを意味します。
どこまでが「直接公共が担うべき業務」なのか、あいまいなまま民間委託を進めることは、なし崩しに大阪市の技術力を喪失することです。
基礎自治体として「直接公共が担うべき業務」への考え方を、明確にすべきです。
5、広域連携に水利権の視点を入れるべき。
淀川流域の自治体同士、水利権を融通しあい、合理的に活用するための調整の場を設けるべきです。
大阪市の水利権は経済的である一方、企業団の水利権はダムの比率が高く、将来ダムの更新等、莫大な費用や水道料金の値上げリスクが高まります。
経済的でありかつ余っている、大阪市その他周辺自治体の水利権を「貸与・譲渡する仕組み」を構築することで、流域との連携を図り有効活用できる可能性があります。
6、民間企業に「公共の役割を求める」こと自体が、そもそも不適切。
民間企業・株式会社は、営利を目的に活動する存在であり、株主重視の傾向が強いことは常識です。民営化後のJRの路線廃止・事故発生のように、将来の「市民サービス・安全性」と「企業の利益」が天秤にかけられることが懸念されます。
「民間企業に大阪市民や他都市への“公共の役割”を求める」こと、「平均寿命数十年とされる民間企業に、将来世代にわたった持続可能な水道を求める」こと自体が、そもそも不適切だと考えます。
7、事故リスクの軽減・未然防止対策は、民間活用すべきでない。
「南海トラフ巨大地震、水源水質の汚染事故等へのリスク対応が今後さらに必要になる」と、この大阪市水道経営戦略にも詳細に課題・対策が書かれています。
JRや東電の原発事故に限らず、昨今民間企業の事故・不祥事が絶えない中、利益を生まないこれらへの安全コストを、民間企業が将来にわたってかけ続けられるか疑問です。
また、水源〜給水栓までの事故リスクの軽減のためには、「民間企業の監視や指導」「国や他自治体との連携」が必要ですが、そもそも一民間企業が担える役割なのか、本当に実施できるのか疑問です。
数多くあるリスクのうち、水道水質リスク管理の対策を一例として見るだけでも、「一民間企業」が担うにはリスクが大きく、とても担えるものではありません。
事故リスクの軽減・未然防止対策は、公営・行政として実施すべきです。
8、「暗黙知」の個人のノウハウは技術継承可能か?
現場作業での暗黙知・個人知を形式知とし、組織内共有することは確かに必要です。
しかし民間委託が進み現場がなくなれば、どうやって暗黙知「カン・コツ・技」をアップデートするのでしょうか。実務経験もなく研修して、本当に体得できるのか大きな疑問です。
「ナレッジマネジメントシステム」構築自体が、将来無駄になる可能性があります。
逆に公営のまま「職員に余裕を持って現場配置」すれば、現場でその都度、業務をしながら生きた技術継承が可能です。
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