2018年01月25日

北海道通信〜この先の『食と農と環境』の取り組みへvol.10(ポテチショック編)

店頭からポテトチップスがなくなる!と大騒ぎになった「ポテチ・ショック」
ポテトチップスに使うジャガイモ産地、北海道ではどんなことが起こっているのか?
そして、あの騒ぎは一体、何だったのしょう…?

<AMネット会報LIM85号より以下転載>(2017年11月25日発行)

北海道通信〜この先の『食と農と環境』の取り組みへvol.10(ポテチショック編)

北海道の白川 博です。今号では、【ポテチショック】に端を発した一連のジャガイモ供給不足の問題、そして国内の馬鈴しょ生産地がこれまで抱えてきた政策課題、併せて『加工用馬鈴しょ』をめぐり、生産現場と農水省との予算折衝に焦点をあてながらお伝えします。

○ 【ポテチショック】について
皆さんもご存知の通りH29春、カルビー・湖池屋などが「ポテトチップス」の一部商品の販売休止や終売(打ち切り)することを発表しました。

H28夏、北海道は観測史上初となる甚大な台風被害に4度も見舞われました。とりわけ北海道の馬鈴しょ生産への影響は根深く、昨28年産の収穫が皆無だったことで、販売商品の原料供給量が例年の1/3以下となってしまいました。実際に、『加工用馬鈴しょ』の収穫作業はもとより、本年作付を予定していた『種馬鈴しょ』まで収穫することがかなわず、絶望的な状況となったのです。
(現在、日本国内における『加工用馬鈴しょ』の生産量は約59万d(27年度)、その内約60%、30万d(うち約4割が北海道・十勝産)をカルビーが原料使用している)

また、「ポテトチップス」の原料となる馬鈴しょの品種は『加工用馬鈴しょ』で、現在、国(農水省)では生馬鈴しょを植物検疫の観点から輸入を禁止しています。

馬鈴しょに限らず、国内に「生」の植物を導入することは土に付着した土壌病害虫や外来生物などが国内の生態系を脅かすことに起因します。そのため、昨夏の甚大な台風被害などによって、国内産馬鈴しょの収穫量が確保できない場合も、輸入馬鈴しょに原料を切り替えることができず、各商品の販売休止や終売となる【ポテチショック】が発生しました。

○ 【ポテチショック】以降の大手各社の販売状況
【ポテチショック】の報道を受け、スーパーなど量販店・コンビニでのポテチ商品の大量購入や、インターネットで高値で落札される様な現象が起きました。普段はそれほど「ポテトチップス」を食べない方も一連の加熱報道を受け、購入した方々もおられるかも知れません。
事実、商品の「売上ベース」報告でも、【ポテチショック】を発表した29年4月10日からの一週間、カルビー・湖池屋の大手メーカーが販売する「ポテトチップス」商品は量販店売上量が2〜2.4倍にまで急増しました。

しかしGW明け5月中旬、新じゃが収穫前にも関わらず、カルビーは報道内容を一転。「ポテトチップス」の通常販売を発表し、どのお店でもポテチ関連商品を購入できるようになりました。その後、【ポテチショック】から半年以上が経過し、29年度の『新じゃが』シーズンを迎えたわけですが、「馬鈴しょ収穫前なのに、不足問題がすっかり沈静化したこと」に、違和感を覚えた方も多かったと思われます。

○ 一連の【ポテチショック】とは?
結局、皆さんをお騒がせした一連の【ポテチショック】とは何だったのか?極めて近視眼的な原料不足であったことに加え、「商業戦略」と有識者から評価されたメディアの加熱報道があったことも否めません。
他方、実際に「ポテトチップス」の原料である『加工用馬鈴しょ』が不足していたことは紛れもない事実です。

実は、昨夏の甚大な台風被害が北海道を直撃する以前から、国内での馬鈴しょ供給量は不足しています。そのため、歴年にわたる慢性的な「馬鈴しょ不足」に対し、国内の各メーカーはポテチ関連を含む商品販売の抜本的な見直しを【ポテチショック】で図ったとも言われています。

〇 新規事業:『ばれいしょ増産輪作推進事業』
農水省では、ポテチの原料『加工用馬鈴しょ』が近年の需要に追いついていないとして、新規事業:『ばれいしょ増産輪作推進事業』を平成30年度の概算要求に約30億円の予算計上を行い、同事業を推進していくと公表しました。

安定した原料調達対策は農水省も大手メーカーも急務であるとし、生産現場と協力し「産地分散」と「品種開発」などの改革に取り組む事業です。

農水省は、気象変動に強い国内産馬鈴しょの調達実現を目標として、主産地・北海道での地域拡充に加え、岩手県・宮城県、熊本県などにも馬鈴しょの産地調達先を拡大する「産地分散」を少しずつ進める方針としました。
また、年次計画を立てて病害虫に抵抗性のある馬鈴しょの「品種開発」は、大手メーカーや生産現場の歴年の願いであるため、早期実現が求められています。

農水省の新規事業に盛り込まれた「産地分散」と「品種開発」の提案そのものに対して、北海道の生産現場からは何ら異論はありません。一見、良いアイディアとなる新規事業ですが、北海道の生産現場と農業団体は見直しを強く要求しています。

○ 『ばれいしょ増産事業』の課題点について
皆さんは、国内産の馬鈴しょには「4区分」あることをご存知でしょうか?
一つは、「ポテトチップス」原料の『加工用馬鈴しょ』、2つ目は、男爵・メークインなどで知られる『生食用馬鈴しょ』、そして3つ目は北海道では主力産品である片栗粉の原料になる『でん粉原料用馬鈴しょ』です。
これに、『種子用馬鈴しょ』を加え、4種の「類区分」があります。

しかし、農水省で【ポテチショック】以降の対応策として打ち出した新規事業:『ばれいしょ増産輪作推進事業』には、生食用馬鈴しょとでん粉原料用馬鈴しょが対象品種となっていません。

今春の【ポテチショック】で、国内産馬鈴しょの供給量体制が脆弱であることが報道されましたが、歴年にわたり、『加工用馬鈴しょ』のみが不足しているのではなく、同様に『生食用・でん粉原料用』も不足していることを皆さんにもご理解頂きたいと願っています。

また、『加工用馬鈴しょ』は、生産性が安定しないことや、市場価格にも大きく影響を受けることなどから、これまでも作付面積が低迷してきた要因があります。従って、産地では地域特性を利用して、生食用・加工用・でん粉原料用・種子用の「4区分」の作付バランスを保ってきました。

『加工用馬鈴しょ』のみの増産体制が現状は難しいことに加えて、「4区分」すべての対策を講じることがないと、根本的解決にならないと生産現場から強い懸念と反発の声が相次いでいます。


○「馬鈴しょ病害虫」に対する農水省の対応と懸念
加えて、ナス科植物である馬鈴しょは、『植物検疫』などの病害虫対策も不可欠であります。平成27年に北海道・オホーツク地域で国内初発生となり、業界関係者に大きな衝撃を与えた『ジャガイモシロシストセンチュウ』対策も2年が経過しましたが、未だ収束のめどが立っていません。

人畜無害とされる同害虫ですが、馬鈴しょに寄生し大幅な収量減と資材や人の往来を介して土壌移動を行うため、生産現場では万全の防疫体制とまん延防止対策を講じています。

その様な渦中で、農水省は『ジャガイモシロシストセンチュウ』が10年以上前に発生した米国・アイダホ州の馬鈴しょの輸入解禁を発表しました。

○ 複雑に絡み合う「馬鈴しょ」対策について
【ポテチショック】と農水省の新規事業、そして米国産馬鈴しょの輸入解禁が一体どの様にリンクするのか、以下に課題整理をしてみます。

−@【ポテチショック】により、国内産の馬鈴しょが不足していることが判明した。
−A その対策として出た農水省の新規事業では「生食用・でん粉原料用」は対象外。【ポテチショック】のみの対策。
−B 国内産馬鈴しょの「不足問題」に対する根本的な解決は「4区分」すべての品種に対して必要。
−C【ポテチショック】で輸入原料が足りないから、Aの新規事業で増産を目指すのに、病害虫リスクのある米国産馬鈴しょを輸入解禁する矛盾。

上記@〜Cの課題に加え、新規事業である『ばれいしょ増産輪作推進事業』の予算要求額30億円の確保も難しいとの情報もあることから、12月に政府が示す補正予算前まで、予断を許さない状況が続いています。

この度、【ポテチショック】で大きな課題点が浮き彫りとなったと同時に、今まで政策要求が難しかった「馬鈴しょ」分野の対策にも改めて生産者とともに全力をあげる理由には、昨年の台風被害で改めて【自然の猛威】を肌身で感じたからであると深く認識しています。今後とも、安易な海外輸入や自由化攻勢に屈することなく、生産拡大対策と適切な国境措置の堅持などをしっかりと求めてまいります■

posted by AMnet at 15:28| 北海道通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする