AMネット会報LIM87号(2018年5月発行)より
北海道通信〜この先の『食と農と環境』の取り組みへVOL.12 (「種子法」をめぐる動き編)
白川 博
北海道の白川 博です。
今号では、2018年4月1日に廃止となった主要農作物種子法(以下、「種子法」)などをめぐる動きを中心に報告します。
○ 【「種子法」廃止をめぐる動き】について
「種子法」の廃止は、政府が2006年11月策定した『農業競争力強化プログラム』中の「関連8法案」の一つとして提起されたことに端を発します。
とりわけ、「米・麦・大豆」の種子に特化し、都道府県に生産及び普及を義務付けてきた種子法が廃止されると、日本の伝統的かつ大切な種子の研究育成が先細るばかりでなく、外資も含めた民間企業にも知見(情報)を提示と明記されており、当時から大きく問題視されていました。
そのような渦中で、2017年4月、十分な審議時間を取ることもなく、前述の「関連8法案」の中で一番初めにスピード可決・成立し、種子法廃止が確定しました。
種子法が廃止されると、食の豊かさや生物多様性を失うでしょう。今後、種子の寡占化(独占)が進み、全世界規模の致命的な病害虫などがまん延した場合、日本の農業・農村が壊滅的な危機となり、危険な状況を招きます。
○ 【都道府県単位の「種子法」】について
これまで「種子法」を法的根拠として、果たすべき「役割」と「予算」を都道府県ごとに定めていました。
「役割」は、都道府県JA及び普及センター、農業試験場などの公的・民間の専門機関がそれぞれの「地域特性」に根差した作物の良質種子が農家に十分に行き渡るように取り組むものです。従って、それらの運営に不可欠な「予算」の配分や、長い年月かけて行う研究開発の費用も、国が責任をもって担ってきました。
○ 【「種子法」廃止後『種苗法』】の見解について
政府は、「種子法」廃止法案の可決・成立の際、
「今後は、『種苗法』が担保されているので、品種開発・育成に影響はない」と回答しました。
しかし、のちに有識者の間で条文整理が進められ、『種苗法』第21条2項及び3項の中に、種子の自家採取が「原則禁止」ともとれる記述があることが判明しました。
また、それらに呼応するかの様に5月15日、農水省でも種苗法の改正を視野に、農家が購入した種苗の自家増殖を「原則禁止」へ制限強化する意向を示しました。
結果、南北に長く中山間地から平野まで多様な「耕作地」を有する日本農業の地域性を重視した種子生産が事実上、閉ざされることになります。
○ 【「種子法」廃止撤回対策】について @
そのような渦中で、立ち上がった基礎自治体があります。新潟・兵庫・埼玉の3県は、コメなどの主要農作物の安定生産・供給を目的として、県単位で責任をもつ「独自条例」を制定しました。その中でも埼玉県は、与党県議の「議員提案」でありました。
さらに、先月4月末までに東日本の稲作地域の県議会・市町村議会の「意見書採択」が60件以上も寄せられています。また、野党6党による「種子法復活法案」も国会に提出され、終盤国会での農政論議が進められていく予定となっています。
前述の3県に続き、当地・北海道においても「独自条例」制定の動きが期待されましたが、新たな「ルール作り」に向けた要綱・要領を定める考えを示しただけで、具体的な期日や方向性などが示されず、道民各層から不安視する声が相次いでいます。
北海道農業は、冷害と戦ってきた長い歴史観があります。
また、広大な農地の気候及び土質の違いなど、道内でも生産環境は異なるため、多種多様な品種開発を継続する必要があります。
また、国の基礎食料生産とは利益追求型の民間企業だけで到底担える仕事ではありません。
将来に渡り優良種子を安定供給する都道府県の果たすべき「役割」と「責任」は大きく、今後も粘り強く消費者理解の醸成などを目的として、官民一体となって取り組むべきです。■
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