2019年02月10日

市民の声をG20/G7に〜W7の経験から〜近年、首脳たちがおこなう議論に対して、非政府主体や市民社会が、自分たちの課題や主張を反映させようという動きが活発になっています。

AMネット会報LIM89号より(2018年11月発行)


市民の声をG20/G7に〜W7の経験から〜

2019 G20サミット市民社会プラットフォーム 
G20大阪市民サミット実行委員会共同代表
アジア・太平洋人権情報センター所長
AMネット理事                      三輪 敦子


 来年2019年6月、大阪でG20が開催されます。G20はG7と並ぶ、いわゆるサミット(頂上会談)ですが、近年、首脳たちがおこなう議論に対して、非政府主体や市民社会が、自分たちの課題や主張を反映させようという動きが活発になっています。


 これらのグループは、エンゲージメントグループ(engagement group)と呼ばれ、C20(civil society:市民社会)、W20(women:女性)、L20(labor:労働組合)、B20(business:ビジネス)、Y20(youth:若者)、T20(think tank:シンクタンク)等、様々なグループが存在します。

 このようなグループが、G20やG7に関わるようになった背景には、「グローバル化した社会におけるグローバル化した問題に対応するには、政府だけでは十分ではなく、非政府主体や市民社会の関与と参加が決定的に重要」との理解があります。


 エンゲージメントグループがどのように活躍できるかは、G20やG7を開催するホスト国の政府が、非政府主体や市民社会とどのような関係を築いてきているかに左右されます。

一方、エンゲージメントグループについては、それぞれのグループがどのように構成されているかも重要なポイントです。多様な人たちの様々な声を反映できるかによって、主張に信頼がおけるグループかどうかが変わってきます。


 2018年のG20ホスト国はアルゼンチンで、C20は、8月6〜7日(月火)にブエノスアイレスで開催され、日本からは2019 G20サミット市民社会プラットフォーム共同代表 の岩附由香さん達が参加しました。


 会議では、2017年12月から2018年7月にかけて、8つの分野別におこなわれた議論を経て作成された「C20政策提言書」 がマクリ大統領に手渡されました。

大統領がC20に出席するなど、アルゼンチンC20は、政府が市民社会を尊重していることが特徴的です。この関係が大阪C20に受け継がれるよう、市民社会として働きかけていく必要があります。

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[1] C20政策提言書(2018)は、以下からダウンロードできます。

https://uploads.strikinglycdn.com/files/6d2b6e53-1e36-481c-9f32-08d60141a3ea/C20-2018-POLICY-PACK-JP.pdf
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 エンゲージメントグループといっても、具体的にどんな人たちが、どんな場所で、どんなことをするのか、イメージがわきにくいのではないでしょうか。今年の4月に、カナダG7に伴って開催されたW7(Women 7)に参加した経験を少しご紹介したいと思います。


 今年のG7は、カナダのシャルルボワで、6月8日から9日にかけて開催されました。

それに先立ち、W7は、4月25日から27日まで、オタワで開催されました。どうしてG7サミットと同時に開催しないのかと思われるかもしれませんが、これは、G7の議論に影響を与えるためには、G7と同時期では遅いというのが理由です。

自分たちの主張をG7の議論に反映させるためには、G7が開催される前にエンゲージメントグループ会合を開催し、効果的にロビイングをおこなうのが大切と考えられているわけです。


 今年の開催国カナダのトルドー首相は、自らを「フェミニスト首相」と称し、2015年の首相就任後、閣僚の半数を女性にしました。報道陣に「どうして閣僚の半数を女性にしたのか」と尋ねられた際、「2015年だから(Because it’s 2015.)」と答えたエピソードは有名です。

そんなこともあり、今回のW7でも、「2018年だから」が合言葉のように何度も使われていました。


 トルドー首相は、そうした自身の主張を前面に押し出す形で、「G7のすべての議題でジェンダー平等を優先課題とする」という政策を掲げました。そしてそれを実施するために、「ジェンダー平等諮問委員会(Gender Equality Advisory Council: GEAC)」という委員会を設置し世界の23名の女性を指名、ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさん他、日本からは女性差別撤廃委員の林陽子さんが加わりました。


 今回のW7は、この「ジェンダー平等諮問委員会」の会合と時期をあわせて開催し、意見交換もおこないました。

そのような場を通して、@様々な背景を有する女性の声を届け、A女性の課題に取り組むための具体的なヴィジョンを提言し、それによりG7が真剣にジェンダー平等に取り組み、女性の現実に則った議論と決定がおこなわれることが目標でした。


 「未来はフェミニスト(The future is feminist.)」をテーマに開催されたW7には、カナダ、他のG7各国、「途上国(グローバルサウス)」から、約60名が参加しましたが、ほとんど全員がNGOでした。組織委員会を構成したのは、Action Canada for Sexual Health and Rights、Oxfam Canada等、7つのNGOでした。


 分科会は、1)ジェンダーと交差性・複合性、2)経済的エンパワメント、3)女性と平和・安全保障、4)気候変動、5)性と生殖に関する健康と権利、6)女性に対する暴力、7)女性運動/フェミニスト運動の7つが設置され、筆者は、「性と生殖に関する健康と権利」の分科会に参加しました。


 事前に「草案の草案」のようなものが作成されているのかと思っていたら、1日目午前から、各グループで、ポストイットと模造紙を使って意見を出し、それを分類し、まとめあげていくという、まさに参加型のプロセスで議論され、提言が練り上げられたのは新鮮な経験でした。英語での文章を求められる国際的な会議で、日常語が英語である参加者が大多数である強みをまざまざと見せつけられた思いでした。


 トルドー首相が参加し、各分科会からの報告がおこなわれた対話集会では、グアテマラから参加した先住民の女性が「グアテマラの鉱山で操業する多国籍企業が先住民女性の生活に深刻な影響を与えているが、その多くはカナダ企業だ」と発言しました。

 終了日前日の深夜におよぶ事務局の奮闘で提言がまとめあげられました。主な内容は以下のとおりです。


1)【ジェンダーと交差性・複合性】 すべての課題との関連性、交差性・複合性を理解したデータ収集、交差性・複合性に配慮した意思決定への参加促進


2)【経済的エンパワメント】 持続可能性・不平等是正の重要性、ディーセントワークの推進、ケアワークの評価と再配分、女性と労働に関連する条約(特にILOの職場における暴力に関する条約)の批准


3)【女性と平和・安全保障】 ドナーとしてのG7の役割、紛争解決・平和構築関連予算の50%を「女性と平和・安全保障」関連事業に、和平協議・会議の代表の半数を女性(地域の女性含む)に


4)【気候変動】 気候変動枠組条約へのジェンダー視点の確保、成長経済からの脱却、気候変動の影響に関するジェンダー分析


5)【性と生殖に関する健康と権利】 ジェンダー視点に立った「性と生殖に関する健康と権利」へのアプローチ、自律的主体としての女性の身体の認識、生殖に関する健康についての知識・情報・アクセス・選択の確保、刑事罰やグローバル・ギャグ・ルールの撤廃


6)【女性に対する暴力】 交差制・複合性の認識(カナダにおける先住民女性の失踪・殺害)、G7各国のGDPの一定割合を「女性に対する暴力」対策に、適切なデータの収集、国際協力や投資の際の条件・留意事項として「女性に対する暴力」への対応・対策を


7)【女性運動/フェミニスト運動】 ジェンダー平等に向けた社会変革・女性の人権課題に関する政府理解に果たしてきた役割の認識、女性団体への資金提供、W7への継続的支援


 こうして提出されたW7の提言は、全面的にジェンダー平等諮問委員会による首相への提言に反映されることになり、W7のML上では「歓喜」のメイルが飛び交いました。


 驚いたのは、G7直後に米国のNGO であるICRWが中心になり、Report Card on the 2018 G7(2018 G7評価シート)という文書を作成したことです。トルドー首相が掲げたジェンダー平等/フェミニストG7に関する目標がどの程度、達成されたかを検討すると同時に、来年のフランスG7に向けた課題を確認することを目的として、G7の公約を検証する文書が発表されました。

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Report Cardは以下からダウンロードが可能です。

https://www.icrw.org/wp-content/uploads/2018/06/G7-Summit-Brief-v7.pdf
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 今回のW7 が市民社会と政府の距離が近い会議であったのは、現政権のスタンス、さらに市民社会、女性NGOが協力して、首相の政策を追い風に自分たちのアジェンダを訴えようと力をあわせたことが大きかったと思います。

W7との意見交換会で、トルドー首相が述べた「社会の方が政治家や行政組織よりもずっと意識が進んでいることがある」「物事を前進させるために、あなたたち(W7参加者)の情熱が必要」という言葉が非常に印象的でした。

市民社会のアジェンダを実現するには、市民社会と政治や行政の緊密な連携が必要ですが、トップの理解とリーダーシップが不可欠であることを改めて強く感じた機会でした。日本も「2019年だから」と言える形で市民と政府との建設的な議論ができることを願います。そのための重要な機会としてG20を活かせるよう、市民社会のパッションを集めたいと思います。■



posted by AMnet at 21:17| G20 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする