2019年07月05日

『なつぞら』からみる「北海道の酪農家の変遷」北海道通信 〜この先の『食と農と環境』の取り組みへ〜vol.15

2019年5月発行、AMネット会報LIM91号より

北海道通信 〜この先の『食と農と環境』の取り組みへ〜 vol.15

『なつぞら』からみる「北海道の酪農家の変遷」編                    白川 博   


北海道の白川 博です。今号は、【北海道の酪農家の変遷】編と題して、具体的な事例も交えお伝えできればと思います。まず戦後、北海道の酪農家がたどってきたこれまでの苦悩などについて報告していきたいと思います。


○ 戦後「なつぞら」時代の北海道酪農

 今春から始まったNHK連続テレビ小説『なつぞら』。

記念すべき100作目は、戦後の北海道・十勝の大自然で、まっすぐに生き抜いたヒロイン・なつの愛と感動のドラマとのことですが、「北海道の酪農家の変遷」も丁寧に描かれていると感じています。


ヒロイン「なつ」の同級生宅も牛1頭から始めたように、「酪農業」は、豚や鳥のような多頭飼育の経営スタイルではなく、1頭でも飼育して牛乳生産ができることから、どの牧場でも、搾乳牛は『家族』のように扱われてきました。


 『なつぞら』で、草刈 正雄さんが演じる「おじいさん」が自分の牛乳と他の酪農家の牛乳と一緒にされたくないと農協(JA)と反発するシーンは、私のまわりにいるたくさんの酪農家の共感と同時に賛否を呼びました。

本来、自由度が高い「個人経営」であるはずの酪農業が、農協だけに集荷を受けるのはたしかにおかしな話です。


 一方で、農協以外の集荷先である各「乳業メーカー」は、北海道のような広大な農地に点在する酪農家、一軒一軒に牛乳を集荷に回るだけでも大きな手間となります。


さらに、当時は酪農家と乳業メーカーの間で牛乳価格の「相対取引」も可能であったことから、商系メーカーから価格の「買いたたかれ」が横行しました。そのため北海道の酪農家は、営農継続がかなわず離農する農家もあるなど、大変不遇な時期がありました。


そのため、個人の酪農家が団結し、しっかりと「価格競争力」を持って、各「乳業メーカー」に対し生乳取引するため、農協が「一元集荷」などを行うことになりました。


そのことが結果として、現代の北海道酪農の『ブランドイメージ』を定着させたと評価する酪農家が多いことも事実です。半面、なつのおじいさんのような、個人の酪農家が持つ生産オリジナリティは、当時表現することが難しくなりました。


○酪農家のオリジナリティと北海道ブランド確立

 戦後の北海道酪農は、国(農水省)の農政誘導により、『大規模効率化』を優先してきました。

北海道の酪農家の多くは、メガ・ギガファームと呼ばれる大規模な搾乳機械及び周辺施設を、億単位の自己投資と国の補助事業により建設することを個人・法人経営を問わず選択しました。


 一方で、本当に自分のペースで酪農業を楽しみながら、かつ、牛乳の品質も最高峰のままで収益率も高い『小規模家族経営』の酪農家が近年、北海道内でも増えてきました。

前述の通り、当時の北海道は牛・馬を1頭から飼育して農業経営を始める方が少なくありませんでした。


行き過ぎた経済至上主義のレールに最初から乗ろうとしなかった草刈 正雄さん演じる「おじいさん」の勇気と苦悩が評価されるのはそれから四半世紀以上、先のことになります。

『不毛地帯』とまで揶揄された北海道の酪農地帯で当時、農家の団結を促し「価格競争力」を持って、商系の乳業メーカーとしっかりと対峙して、現在の日本酪農への安定生産・供給体制を確立したのは紛れもなく農協の力が大きいと感じています。


今も昔も、北海道牛乳の「クオリティ」は最高峰です。それは、酪農生産者の不断の努力の裏付けであることは言うまでもありません。
しかし、当時の酪農家の切実な「総意」として、品質保持の難しい牛乳の「成分特性」を活かした農協の『一元集荷・多元販売』という業界戦略によって確立してきた「北海道ブランド」があることもまた、事実です。
今後の『なつぞら』の展開にも目が離せませんが、ほどよいバランスで、農協や地域関係企業と共栄・共存を図ることも大切なのかも知れません。


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2019年01月02日

北海道通信「下町ロケットから考える〜最新技術とコミュニティ編〜この先の『食と農と環境』の取り組みへ」vol.14

AMネット会報LIM89号より

北海道通信「下町ロケットから考える〜最新技術とコミュニティ編
〜この先の『食と農と環境』の取り組みへ」vol.14


北海道の白川 博です。今号でも【北海道で農業をやること】のテーマに特化し、具体的な事例も交えお伝えできればと思います。まず、農村地域のコミュニティについて報告していきたいと思います。


○ 最新鋭の【農業技術】が抱えている課題

 政府や農水省では兼ねてより、『超省力型農業』の一環として、ICT及びGPSなどの高性能機器をトラクターや作業機に搭載し、作業効率化を図る「スマート農業」を進めています。しかし、その歯止めがかからない農業人口の減少を加速化させる、皮肉な状況を生んでいます。


決して、最新鋭の技術革新そのものを否定はしません。一方で、高額な農作業機器であるGPS機能に対応できる高性能トラクターや作業機の購入は、国の助成があっても農家には結果的に大きな負担となります。また、晴天の日だけを選ぶことができない生産現場では、どうしても過酷な条件で農作業機械を使う場面もあり、実際の機械の更新期間は早まることも、農家負担を助長しています。


 地震により、北海道全域がブラックアウトし、最新設備を導入している酪農家が搾乳できないなど多大な被害が出ました。最新設備を入れれば入れるほど、災害時に弱く、復旧も困難であることも念頭に置くべきです。


○ 下町ロケット「無人トラクター」で課題解決?

 最近では、TBS系ドラマ「下町ロケット」でも話題となっている「無人トラクター」ですが、北海道で購入する場合の最大のネックは前述の購入費に加え、通信衛星から『受信途絶』する可能性が上げられます。


 北海道の様に広大な農地では、人工衛星や電話網などの「通信受信エリア」がカバーされていない農地が散見されます。また、地図上でカバーされていても、実際の農地の真ん中で、『受信途絶』がおきるケースもあります。


 政府や農水省が推奨する「スマート農業」の中心軸は、人工衛星「みちびき」からの受信する『誤差2〜3cm』とも言われる極めて精度の高いGPS測量にあります。
 北海道でもGPSを搭載したトラクターや作業機を導入する動きがあることから、今後は各自治体の山間部などに「地上基地局」を設置し、人工衛星からの受信カバー率を上げる動きも出てきています。これも、設置費用が個人農家で賄える金額ではないため、JAや基礎自治体が連携して除雪車などにもGPS機能を搭載し、冬場の主要幹線道路の除雪作業に対する効率化も複合的に検討しています。


農業で食べられないから、人がいなくなる。人口減少に対応するために無人トラクターで作物は作る。が、人手は不要なので、地域に人がいなくなる。その無人トラクターにも、多額の税金投入が必要であり、補助金漬けと将来揶揄されるのでは?「農業政策」はあっても「農村政策」は無い一例です。


○ 【農村地域の「コミュニティ」】対策について

 北海道は、政令指定都市・札幌に人口集中が進む一方で、「地域の良さ」を再認識する動きも、札幌市で取り組んでいます。甚大な被害をもたらした北海道胆振東部地震の影響により開催が危ぶまれた『さっぽろオータムフェスト』は、札幌 大通公園で開催される国内最大級の食の祭典です。記念すべき10回目は会期を順延しながら、延べ約200万人の来場者に対し震源地の厚真・安平・むかわ3町を応援するブースを設置し、秋の味覚を楽しんでもらうフードイベントとなりました。


また、私の故郷・清里町では農村地域の「コミュニティ」の大切さを体感するため、毎年9月の繁忙期に収穫感謝祭を開催するとともに、栃木県佐野市との提携で旬のナシを格安販売するなど、農村地域ならではの「手作りの良さ」を町民全体で共有する取り組みを継続展開しています。


北海道から【農業をやること】の意義は、近年多発する自然災害に翻弄されながらも、農村地域の「コミュニティ」の元気を毎年、全国発信することで都府県でともに頑張っている農業生産者や消費者ともつながり合う「絆」であると感じています。そのために、食と農と環境を大切にしていくことを皆さんと何度も共感できればと思います。■

posted by AMnet at 22:17| 北海道通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月08日

農業政策(産業政策)があっても、「農村政策」(地域政策)が欠けている!→北海道通信 〜この先の『食と農と環境』の取り組みへ〜vol.13 【北海道で農業をやること】コミュニティ編

AMネット会報LIM88号(2018年8月発行)より

北海道通信
〜この先の『食と農と環境』の取り組みへ〜vol.13

【北海道で農業をやること】コミュニティ                                白川 博


北海道の白川 博です。

今号より【北海道で農業をやること】のテーマで、個別具体的にお伝えできればと、今回は、農村地域のコミュニティについて報告します。


○【農村地域の「コミュニティ」】の課題について

 北海道に限らず、国内各地に点在している農村地域では「限界集落」と呼ばれるなど、農業人口の減少に歯止めがかかりません。生産現場を持続的に展開するために山積する諸課題の解決策が、歴年にわたって提起されています。


その中でも、農村地域の「コミュニティ」が日本農業に対する大切な役割と人格形成を担っていたことが有識者の研究などで明らかになってきました。



○ 農業政策だけでなく「農村政策」を!

 政府や農水省では兼ねてより、農家の「生産力の向上」などに資する様々な施策や取り組みがなされてきました。直近では、ICTやGPSの高性能機器をトラクターや作業機などに搭載した「スマート農業」で農業人口の減少に対応する動きが加速しています。


しかし、農業政策(産業政策)があっても、「農村政策」(地域政策)が欠けていることが今日の日本農業の危機的な状況を誘引していたとの課題は、未だ解消されずに横たわったままでした。



○ 【農村地域の「コミュニティ」】とは?

 農村地域の「コミュニティ」とは、地域に住む農業者・それ以外の方々との相互理解のもとで、「自治力」を連携しながら営むことに尽きると思います。


農業・農村が持つ『多面的機能』とは、例えば国土保全・治水、土砂流出防止などの効果であり、それらが大きな役割を果たしていることを農業関係機関・団体は提唱するようになりました。


農業生産を営む農家が生み出すのは、農産物だけではありません。

上記の多面的機能だけでなく、例えば、美しい田園風景を維持する『景観保全』、加えて土や作物の温かみに触れることで、本来の『人間らしさ』を取り戻す効果・効能が生産現場にはあることが科学的に実証されています。都会の生活では体験しにくい「安らぎ・癒し」を農業体験できる場所は、昔から変わらず農村地域に存在していました。



○ 始まっている「コミュニティ」】対策

 現在、北海道では札幌市に人口集中が進む一方、地方に住む人々が知恵を出し合い、自分たちで農業をはじめとする地場産業の振興のみならず、地元の商店街を積極的に利用することで、「地域完結型」となる共栄・共存策に取り組んでいます。


また、農村地域の「コミュニティ」の大切さを体感するため、地元文化の継承などを目的に、お祭りや収穫感謝祭を住民全体で企画・立案し、農畜産物の格安販売や加工品の展示即売・収穫体験などの各種イベントを通じて、農村地域の良さを粘り強く伝えていこうとする自治体が本当に増えてきました。


かつて「過疎地域」と揶揄され、都会の生活に憧れ故郷を離れた若者たちが、再び地元に帰り就職できる雇用の受け入れ先を、率先して展開とする動きも、農村地域から生まれてきています。

まだまだ、安定的な実用には課題が残されているものの、一例として『農福連携』(農業と福祉分野の融合策)というのも、農村地域が果たすべき「コミュニティ」の延長上にある地方都市の大切な生き残り策と考えています。


北海道内の農業体系には、稲作・畑作野菜・果樹・酪農畜産などの分野があり、それらの6次産業化となる商品開発も取り組みも進んでいます。


『平成』が最後と言われる年に、西日本を中心とした甚大な自然災害が発生しました。北海道も7月に一級河川の石狩川の氾濫を招いた豪雨災害に見舞われました。


茫然自失となる農業者と地域住民の皆さんに心からのお見舞いを申し上げながら、本当に自国で食料生産ができなくなるかも知れない危機感を痛感した年回りであります。改めて、北海道から【農業をやること】の意義と、農村地域の「コミュニティ」の維持が大切であることを皆さんとともに共感できればと心から願ってやみません。■

posted by AMnet at 14:39| 北海道通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

北海道通信〜この先の『食と農と環境』の取り組みへVOL.12 「種子法」をめぐる動き編

AMネット会報LIM87号(2018年5月発行)より

北海道通信
〜この先の『食と農と環境』の取り組みへVOL.12 (「種子法」をめぐる動き)

白川 博

北海道の白川 博です。
今号では、201841日に廃止となった主要農作物種子法(以下、「種子法」)などをめぐる動きを中心に報告します。


○ 【「種子法」廃止をめぐる動き】について

 「種子法」の廃止は、政府が200611月策定した『農業競争力強化プログラム』中の「関連8法案」の一つとして提起されたことに端を発します。

とりわけ、「米・麦・大豆」の種子に特化し、都道府県に生産及び普及を義務付けてきた種子法が廃止されると、日本の伝統的かつ大切な種子の研究育成が先細るばかりでなく、外資も含めた民間企業にも知見(情報)を提示と明記されており、当時から大きく問題視されていました。


 そのような渦中で、20174月、十分な審議時間を取ることもなく、前述の「関連8法案」の中で一番初めにスピード可決・成立し、種子法廃止が確定しました。


 種子法が廃止されると、食の豊かさや生物多様性を失うでしょう。今後、種子の寡占化(独占)が進み、全世界規模の致命的な病害虫などがまん延した場合、日本の農業・農村が壊滅的な危機となり、危険な状況を招きます。


○ 【都道府県単位の「種子法」】について

 これまで「種子法」を法的根拠として、果たすべき「役割」と「予算」を都道府県ごとに定めていました。

「役割」は、都道府県JA及び普及センター、農業試験場などの公的・民間の専門機関がそれぞれの「地域特性」に根差した作物の良質種子が農家に十分に行き渡るように取り組むものです。従って、それらの運営に不可欠な「予算」の配分や、長い年月かけて行う研究開発の費用も、国が責任をもって担ってきました。


○ 【「種子法」廃止後『種苗法』】の見解について

 政府は、「種子法」廃止法案の可決・成立の際、

「今後は、『種苗法』が担保されているので、品種開発・育成に影響はない」と回答しました。


しかし、のちに有識者の間で条文整理が進められ、『種苗法』第212項及び3項の中に、種子の自家採取が「原則禁止」ともとれる記述があることが判明しました。


また、それらに呼応するかの様に515日、農水省でも種苗法の改正を視野に、農家が購入した種苗の自家増殖を「原則禁止」へ制限強化する意向を示しました。

結果、南北に長く中山間地から平野まで多様な「耕作地」を有する日本農業の地域性を重視した種子生産が事実上、閉ざされることになります。


○ 【「種子法」廃止撤回対策】について @

 そのような渦中で、立ち上がった基礎自治体があります。新潟・兵庫・埼玉の3県は、コメなどの主要農作物の安定生産・供給を目的として、県単位で責任をもつ「独自条例」を制定しました。その中でも埼玉県は、与党県議の「議員提案」でありました。

さらに、先月4月末までに東日本の稲作地域の県議会・市町村議会の「意見書採択」が60件以上も寄せられています。また、野党6党による「種子法復活法案」も国会に提出され、終盤国会での農政論議が進められていく予定となっています。


 前述の3県に続き、当地・北海道においても「独自条例」制定の動きが期待されましたが、新たな「ルール作り」に向けた要綱・要領を定める考えを示しただけで、具体的な期日や方向性などが示されず、道民各層から不安視する声が相次いでいます。


北海道農業は、冷害と戦ってきた長い歴史観があります。

また、広大な農地の気候及び土質の違いなど、道内でも生産環境は異なるため、多種多様な品種開発を継続する必要があります。


 また、国の基礎食料生産とは利益追求型の民間企業だけで到底担える仕事ではありません。

将来に渡り優良種子を安定供給する都道府県の果たすべき「役割」と「責任」は大きく、今後も粘り強く消費者理解の醸成などを目的として、官民一体となって取り組むべきです。■

posted by AMnet at 14:32| 北海道通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月22日

北海道通信〜この先の『食と農と環境』の取り組みへvol.11 (食の「安全・安心」編)

AMネット会報LIMより転載

北海道通信 〜この先の『食と農と環境』の取り組みへvol.11
食の「安全・安心」編

白川 博

○ 【遺伝子組み換え「てん菜」(GMてん菜)】について


 平成29年3月に、日本農学アカデミーは、「遺伝子組み換え作物(GM作物)の実証栽培に関する提言」を公表しました。

その内容は、日本で頻発する自然災害などの様々な農業環境の変化に対応するため、海外の遺伝子組み換え作物の利点を生かした「実証栽培」を全国各地で行うことなどを提言するものでした。

 その中で、北海道を中心に栽培される寒冷地作物「てん菜」についても除草剤耐性のある『遺伝子組み換えてん菜(GMてん菜)』の栽培試験を行うよう、国と道庁に求める提言が含まれており、内外関係者に大きな波紋を及ぼしました。


 これまでも、遺伝子組み換え作物(GM作物)の安全性や一般作物との交雑問題は、全国的な問題として取り上げられてきました。

しかし、対象となっていた作物は、「稲・麦・大豆」などで、砂糖や甘味原料の加工用途が中心の「てん菜」には遺伝子組み換えの商業メリットがないとされてきました。そのため、上記の提言により生産者はもとより、糖業者(北海道には、系統・商系含め8工場が点在)にもGMてん菜原料の受け入れ拒否などの動きが生まれました。



○ 【農薬・グリホサート剤】の残留基準問題について

 北海道が主産地形成を担う「てん菜」は、栽培特性上、春先の種まきから晩秋の取り入れまでの生育期間が長く、草取りなどの過重労働が兼ねてより課題となっています。

 ここに、前述の遺伝子組み換え「てん菜」ならば、「ラウンドアップ」に代表されるグリホサート剤への耐性があるとの提言内容が出たことの意味を考える必要があります。

農薬・グリホサート剤とは、商品名「ラウンドアップ」・「タッチダウン」などに代表される除草剤で、欧米ではすでに環境保全や発がん性の影響などから使用禁止されている農薬です。

平成29年3月下旬に、厚労省の「薬事・食品衛生審議会」において、農薬・グリホサート剤などの残留基準値が大幅改正されました。これは、食品安全委員会が査定する「食品健康影響評価」の結果を踏まえ、国際基準(コーデックス規格)に合わせたものとされます。

同剤の残留基準値が緩和された原料作物は、小麦などの穀類、小豆などの豆類、そして、問題となる「てん菜」でした。

 一方、同提言に対しては、農業団体はもとより、糖業者など関係団体も強く反発しています。食の「安全・安心」が担保できないことも大きな要因ですが、てん菜の過重労働は、草取りなどの「管理作業」だけが課題なのではなく、生育ステージ総体の問題であるからです。


○ 当面する対策運動と消費者理解の醸成などについて

 このような課題に対し、北海道庁では平成17年3月に、通称『北海道GM基本条例』を公布しました。同条例により、北海道では遺伝子組み換え作物を栽培する場合には知事の「認可」が必要となっています。

 この法的根拠に基づき、JAグループ北海道は、今年3月に、改めて『食の安全・安心宣言』を行い、農畜産物の安定供給を目的に、遺伝子組み換え作物の「栽培・集荷・販売」を行わないことを徹底し、交雑汚染のリスクに対しても、万全の対応を行う予定ということです。

 他方、消費者庁の有識者会議も1月31日に会合を開き、食品表示における「GM混入率5%以下」より、混入率がほぼ「ゼロ」となる検出限界値まで引き下げる方針を発表しました。

これまでも、5%までは遺伝子組み換えが事実上、容認されていたことから、消費者が誤解を招くことなどを求めていたことに応えたもので、今年度中に新表示基準を盛り込んだ「報告書案」が政府に提出される見通しです。

『北海道発信』においても、遺伝子組み換え「てん菜」栽培を北海道の一部の生産者が望んでいる実態を地域住民に話題提供しながら、遺伝子組み換え作物がもたらす、様々な脅威やリスクなどを共有し、食の「安全・安心」をしっかりとお伝えしていきたいと思います。■


posted by AMnet at 20:19| 北海道通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月25日

北海道通信〜この先の『食と農と環境』の取り組みへvol.10(ポテチショック編)

店頭からポテトチップスがなくなる!と大騒ぎになった「ポテチ・ショック」
ポテトチップスに使うジャガイモ産地、北海道ではどんなことが起こっているのか?
そして、あの騒ぎは一体、何だったのしょう…?

<AMネット会報LIM85号より以下転載>(2017年11月25日発行)

北海道通信〜この先の『食と農と環境』の取り組みへvol.10(ポテチショック編)

北海道の白川 博です。今号では、【ポテチショック】に端を発した一連のジャガイモ供給不足の問題、そして国内の馬鈴しょ生産地がこれまで抱えてきた政策課題、併せて『加工用馬鈴しょ』をめぐり、生産現場と農水省との予算折衝に焦点をあてながらお伝えします。

○ 【ポテチショック】について
皆さんもご存知の通りH29春、カルビー・湖池屋などが「ポテトチップス」の一部商品の販売休止や終売(打ち切り)することを発表しました。

H28夏、北海道は観測史上初となる甚大な台風被害に4度も見舞われました。とりわけ北海道の馬鈴しょ生産への影響は根深く、昨28年産の収穫が皆無だったことで、販売商品の原料供給量が例年の1/3以下となってしまいました。実際に、『加工用馬鈴しょ』の収穫作業はもとより、本年作付を予定していた『種馬鈴しょ』まで収穫することがかなわず、絶望的な状況となったのです。
(現在、日本国内における『加工用馬鈴しょ』の生産量は約59万d(27年度)、その内約60%、30万d(うち約4割が北海道・十勝産)をカルビーが原料使用している)

また、「ポテトチップス」の原料となる馬鈴しょの品種は『加工用馬鈴しょ』で、現在、国(農水省)では生馬鈴しょを植物検疫の観点から輸入を禁止しています。

馬鈴しょに限らず、国内に「生」の植物を導入することは土に付着した土壌病害虫や外来生物などが国内の生態系を脅かすことに起因します。そのため、昨夏の甚大な台風被害などによって、国内産馬鈴しょの収穫量が確保できない場合も、輸入馬鈴しょに原料を切り替えることができず、各商品の販売休止や終売となる【ポテチショック】が発生しました。

○ 【ポテチショック】以降の大手各社の販売状況
【ポテチショック】の報道を受け、スーパーなど量販店・コンビニでのポテチ商品の大量購入や、インターネットで高値で落札される様な現象が起きました。普段はそれほど「ポテトチップス」を食べない方も一連の加熱報道を受け、購入した方々もおられるかも知れません。
事実、商品の「売上ベース」報告でも、【ポテチショック】を発表した29年4月10日からの一週間、カルビー・湖池屋の大手メーカーが販売する「ポテトチップス」商品は量販店売上量が2〜2.4倍にまで急増しました。

しかしGW明け5月中旬、新じゃが収穫前にも関わらず、カルビーは報道内容を一転。「ポテトチップス」の通常販売を発表し、どのお店でもポテチ関連商品を購入できるようになりました。その後、【ポテチショック】から半年以上が経過し、29年度の『新じゃが』シーズンを迎えたわけですが、「馬鈴しょ収穫前なのに、不足問題がすっかり沈静化したこと」に、違和感を覚えた方も多かったと思われます。

○ 一連の【ポテチショック】とは?
結局、皆さんをお騒がせした一連の【ポテチショック】とは何だったのか?極めて近視眼的な原料不足であったことに加え、「商業戦略」と有識者から評価されたメディアの加熱報道があったことも否めません。
他方、実際に「ポテトチップス」の原料である『加工用馬鈴しょ』が不足していたことは紛れもない事実です。

実は、昨夏の甚大な台風被害が北海道を直撃する以前から、国内での馬鈴しょ供給量は不足しています。そのため、歴年にわたる慢性的な「馬鈴しょ不足」に対し、国内の各メーカーはポテチ関連を含む商品販売の抜本的な見直しを【ポテチショック】で図ったとも言われています。

〇 新規事業:『ばれいしょ増産輪作推進事業』
農水省では、ポテチの原料『加工用馬鈴しょ』が近年の需要に追いついていないとして、新規事業:『ばれいしょ増産輪作推進事業』を平成30年度の概算要求に約30億円の予算計上を行い、同事業を推進していくと公表しました。

安定した原料調達対策は農水省も大手メーカーも急務であるとし、生産現場と協力し「産地分散」と「品種開発」などの改革に取り組む事業です。

農水省は、気象変動に強い国内産馬鈴しょの調達実現を目標として、主産地・北海道での地域拡充に加え、岩手県・宮城県、熊本県などにも馬鈴しょの産地調達先を拡大する「産地分散」を少しずつ進める方針としました。
また、年次計画を立てて病害虫に抵抗性のある馬鈴しょの「品種開発」は、大手メーカーや生産現場の歴年の願いであるため、早期実現が求められています。

農水省の新規事業に盛り込まれた「産地分散」と「品種開発」の提案そのものに対して、北海道の生産現場からは何ら異論はありません。一見、良いアイディアとなる新規事業ですが、北海道の生産現場と農業団体は見直しを強く要求しています。

○ 『ばれいしょ増産事業』の課題点について
皆さんは、国内産の馬鈴しょには「4区分」あることをご存知でしょうか?
一つは、「ポテトチップス」原料の『加工用馬鈴しょ』、2つ目は、男爵・メークインなどで知られる『生食用馬鈴しょ』、そして3つ目は北海道では主力産品である片栗粉の原料になる『でん粉原料用馬鈴しょ』です。
これに、『種子用馬鈴しょ』を加え、4種の「類区分」があります。

しかし、農水省で【ポテチショック】以降の対応策として打ち出した新規事業:『ばれいしょ増産輪作推進事業』には、生食用馬鈴しょとでん粉原料用馬鈴しょが対象品種となっていません。

今春の【ポテチショック】で、国内産馬鈴しょの供給量体制が脆弱であることが報道されましたが、歴年にわたり、『加工用馬鈴しょ』のみが不足しているのではなく、同様に『生食用・でん粉原料用』も不足していることを皆さんにもご理解頂きたいと願っています。

また、『加工用馬鈴しょ』は、生産性が安定しないことや、市場価格にも大きく影響を受けることなどから、これまでも作付面積が低迷してきた要因があります。従って、産地では地域特性を利用して、生食用・加工用・でん粉原料用・種子用の「4区分」の作付バランスを保ってきました。

『加工用馬鈴しょ』のみの増産体制が現状は難しいことに加えて、「4区分」すべての対策を講じることがないと、根本的解決にならないと生産現場から強い懸念と反発の声が相次いでいます。


○「馬鈴しょ病害虫」に対する農水省の対応と懸念
加えて、ナス科植物である馬鈴しょは、『植物検疫』などの病害虫対策も不可欠であります。平成27年に北海道・オホーツク地域で国内初発生となり、業界関係者に大きな衝撃を与えた『ジャガイモシロシストセンチュウ』対策も2年が経過しましたが、未だ収束のめどが立っていません。

人畜無害とされる同害虫ですが、馬鈴しょに寄生し大幅な収量減と資材や人の往来を介して土壌移動を行うため、生産現場では万全の防疫体制とまん延防止対策を講じています。

その様な渦中で、農水省は『ジャガイモシロシストセンチュウ』が10年以上前に発生した米国・アイダホ州の馬鈴しょの輸入解禁を発表しました。

○ 複雑に絡み合う「馬鈴しょ」対策について
【ポテチショック】と農水省の新規事業、そして米国産馬鈴しょの輸入解禁が一体どの様にリンクするのか、以下に課題整理をしてみます。

−@【ポテチショック】により、国内産の馬鈴しょが不足していることが判明した。
−A その対策として出た農水省の新規事業では「生食用・でん粉原料用」は対象外。【ポテチショック】のみの対策。
−B 国内産馬鈴しょの「不足問題」に対する根本的な解決は「4区分」すべての品種に対して必要。
−C【ポテチショック】で輸入原料が足りないから、Aの新規事業で増産を目指すのに、病害虫リスクのある米国産馬鈴しょを輸入解禁する矛盾。

上記@〜Cの課題に加え、新規事業である『ばれいしょ増産輪作推進事業』の予算要求額30億円の確保も難しいとの情報もあることから、12月に政府が示す補正予算前まで、予断を許さない状況が続いています。

この度、【ポテチショック】で大きな課題点が浮き彫りとなったと同時に、今まで政策要求が難しかった「馬鈴しょ」分野の対策にも改めて生産者とともに全力をあげる理由には、昨年の台風被害で改めて【自然の猛威】を肌身で感じたからであると深く認識しています。今後とも、安易な海外輸入や自由化攻勢に屈することなく、生産拡大対策と適切な国境措置の堅持などをしっかりと求めてまいります■

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2017年09月11日

北海道通信〜この先の『食と農と環境』の取り組みへ〜vol.9【日欧EPAチーズ編】

<AMネット会報LIM84号より転載>

北海道通信〜この先の『食と農と環境』の取り組みへ〜vol.9
【日欧EPAチーズ編】

白川 博

北海道の白川 博です。今号では、日欧EPA交渉における北海道農業に大きな影響を与えることなどが懸念される乳製品、特にチーズに焦点をあてお伝えします。

○ 日欧EPA交渉「大枠合意」によるチーズ等への影響

欧州からのチーズや豚肉など、輸入農畜産物への関税は大幅に引き下げ、一部は完全撤廃となりました。日欧EPAの「大枠合意」発表以降、国内農畜産物の98%の品目にも上る関税撤廃との見方が強まっています。

そのような状況の中、北海道農業に大きな影響を与えるとされるのがチーズを中心とした乳製品関連で、とりわけ最大の焦点とされたのはカマンベールなどの「ソフト系チーズ」です。シュレッドチーズ・ブルーチーズ以外の「ソフト系チーズ」は29.8%の関税を課し、TPPでも関税が維持されていました。

しかし今回の大枠合意で、低関税枠を設け、段階的に関税を引き下げ、16年目に初年度の2万dから3万1千dまで増量した枠内の関税を撤廃することで合意。TPPを大きく上回る譲歩は、北海道の酪農・畜産関係者に対して、極めて大きな衝撃と強い不安を与える内容となりました。

○ 北海道のチーズ振興と都府県への影響
現在、北海道内には大手乳業や中小のチーズ工房を含め140の施設が点在しており、食や観光産業に対する魅力発信の一翼を担っています。

国産チーズの98%が、北海道産の生乳由来です。
道府県は生乳を単価の高い「飲用乳」中心とし、北海道産の生乳の8割は「飲用乳」ではなく、生クリームやチーズ・バターなどの「加工品向け」に製造することで、国内生産を安定化させ、都府県との「需給安定」のバランスを保ってきました。

しかし、日欧EPAの輸入緩和と価格低下で欧州の乳製品が入ってくれば、北海道産の生乳は「加工品向け」ではなく、現況でも不足しがちな「飲用乳」への転換を余儀なくされます。これまで、北海道以外の酪農家(生乳生産量で約4割を占める)との間で維持されてきた『需給調整機能』が失われるでしょう。

結果、「需給安定」のバランスが崩れ、北海道のみならず、日本酪農総体にも大きな影響を与える問題となります。
都府県の中小規模の乳業メーカーでは、国内競争が激化することで運営が成り立たず、廃業を余儀なくされる可能性なども示唆されています。

北海道産チーズの主流は、カマンベールやモッツァレラチーズに代表される「ソフト系チーズ」です。

 一方、日本人の嗜好性を徹底的に分析し、将来有望な「市場」が見込めるとして、EU諸国が豚肉の「テーブルミート」と並び、虎視眈々と市場開放を求めているのも「ソフト系チーズ」です。

 大幅な輸入増加が見込まれる欧州産の高品質かつ多種多様で安価なチーズと、やっと市場価値が上がってきたばかりの国産チーズ。「すみ分け」対策ができなければ、事実上、価格競争に太刀打ち不可能とされ、それだけ、欧州産のチーズを含む乳製品は脅威と言えます。

○ 欧州の市場開放への対策
欧州には農家所得を支える「直接支払い政策」があり、自国の農業を守り抜く制度・政策にも、欧州と日本では大きな違いがあります。

農家所得に占める自国の補助金割合を「農業支援度」と呼称します。農家の所得のうち補助金が占める割合は、日本が4割弱であるのに対して、フランスは9割以上、ドイツも7割です。つまり、国内の農畜産物が下がっても「所得補償」により経営維持が可能です。

この様な「農家の所得を国策で賄う」国内政策は、農業先進国では常識とされるものです。そうした「裏づけ」があって、欧州では強い価格競争力を維持できているのです。さらに、欧州の生乳価格は、世界で最も競争力があるNZと同水準と言われていることも交渉の強みであります。

一方、仮に国産チーズ並びに乳製品が、欧州並みの政策(補助金等)であればどうでしょうか?生乳品質では「世界最高峰」の厳しい基準をクリア、国産生乳と卓越した技術者の相互シンクロによって、欧州チーズに何ら遜色ない乳製品を生産できることは現段階でも実証されています。

しかしながら、未だ「生産基盤」が盤石でない国内生産量と価格政策の上に、圧倒的な生産量と品数・価格で輸出を目論む欧州とはその差が歴然としています。

○ 今後の「日欧EPA交渉」対策について
 日欧EPAにおける「国内対策」を注視すると同時に、政府が日欧EPA「大枠合意」に至った分野の影響試算の公表が先決です。また、あらゆる貿易自由化攻勢に対し、生産現場への信頼を欠いたままのさらなる市場開放は、わが国の基礎食糧生産の放棄だと、粘り強く訴えてまいります。■
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2016年12月01日

北海道通信〜甚大な台風被害と災害補助の状況〜vol.6

AMネット会報LIM81号より

「北海道通信〜甚大な台風被害と災害補助の状況〜vol.6」
白川 博 さん

 北海道では、台風7号(8/16〜17)、11号(8/20〜21)、9号(8/22〜23)、10号(8/29〜31)など、北海道に、一連の台風が猛烈な勢力を保ったまま連続で直撃したことは、観測統計を開始した1889年(明治22年)以降過去に例がなく、各農作物においても壊滅的な被害を及ぼしました。農地・農道などの復旧には今もメドが立っていません。

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<通行止めが続いている国道274号線。日勝峠では複数箇所で道路の損壊や土石流が発生した。増水した沢に基礎部分が削られ、路面が落ちた日勝峠「三国の沢覆道」
(9月3日、胆振管内日高町:帯広開発建設部提供)>


■甚大な台風被害

 今般の台風災害の集中豪雨・強風などにより、89ヵ所の河川氾濫、農地の土砂流入、住宅損壊・浸水被害が発生しました。これまで、北海道内の災害規模では過去最悪と呼称されていた1981(昭和56年)の通称【56水害】の被災規模も大きく上回り、道路及び河川なども含めた被害総額が2,740億円にも上る未曽有の災害状況となりました。

 台風被害による宿泊キャンセルなどの影響が報告されている施設は120件以上(北海道観光局調べ)と、一連の台風被害によって、ライフラインや公共交通網が寸断されたことにより、観光・運輸業界等にもかつてない経済的損失を及ぼしています。

 今般の台風の影響等によって、高齢者や障害者が入居する道内18の福祉施設に大きな浸水被害などが発生しましたが、7割が国の水防法に基づく「浸水想定区域外」であったことがわかりました。また、「想定区域内」であっても、洪水などに備えた避難計画づくりは遅れているため、今後は、北海道の各地で台風の大雨・浸水被害の恐れがあることを「現実」として、想定区域指定の有無に関わらず、万全な防災対策を講じる必要があります。

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<生活道路が一面で冠水し、住宅街を不安そうに手をつないで見つめている親子(8月31日、十勝管内芽室町)>


■収穫目前の農作物被害

市街地のみならず、自然の猛威によって『実りの秋』を奪われた農業・農村地域は、次年度以降の農業経営はもとより、今年の農作物や販売収益などはどうなってしまうのか?
今秋の収穫を目前に控えていた農地・農作物、農業用関連施設においても、惨憺たる被害状況が報告されています。北海道内の農林水産業の被害総額は675億円(うち農業分野は543億円)、被害面積で3万8,927haもの甚大な被害報告となりました。

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<河川氾濫により、農地を超え広範囲にまたがり冠水被害が発生。収穫を目前に控えた玉ねぎが回収不能となり、道路を横断した。(8月30日北見市常呂・日吉地区)>

来春の各農作物の作付に向けた農地復旧には、「客土」と呼ばれる土を入れることが不可欠です。11月中旬頃より土壌凍結が始まることから、現在も農地復旧に資する緊急対策の構築を、国や道に要請していますが、被災から2ヵ月以上経過しても復旧スケジュールのメドが立っていない農地が散見されています。

 また、台風の豪雨の影響によって、土壌含水量が多く農地が乾くことができません。畑地のみならず、大きな影響被害が報告されにくいはずの「牧草地」にも湿害となる『根腐り』が発生し、牧草収穫の遅延と品質劣化の両面で、酪農家の経費増として重くのしかかっています。

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<氾濫増水した影響で、幹線道路の崩落並びに原形をとどめていない「牧草地」(9月1日、十勝管内)>


■「激甚災害」指定での災害補助

国は、北海道を襲った台風を「激甚災害」に指定しましたが、災害補助率は最大で98%までかさ上げされ、被災した農地や農業用関連施設などの万全の復旧対策を進めていくこととなります。
 
 一方、被害を受けた農作物は国の激甚災害の「補償対象外」となります。これは、全国の農業者が任意加入(作物によっては強制加入もあり)できる「農業共済制度(相互保険)」で、農作物が補償されることが大きいと思われます。


■相互扶助の「農業共済制度」

 農業者の「経営セーフティネット対策」と呼ばれる農作物の相互保険制度(農業共済制度)の観点から、生産者や地域JAの取り組みなどをご紹介します。
「農業共済制度」は、農業災害補償法の下で昭和22年、農業者に対して国の公的な、相互扶助の保険制度として設立されました。

各都道府県(地域ブロック単位)の農業者が毎年支払う共済掛金を原資として、自然災害に被災した農業者に対し、被害程度(減収量補償)に応じて共済金が支払われる制度です。(運営資金の約半分は国の公的資金(国庫負担)で賄われる)

 一方で、主力作物である長いも・ニンジン等の野菜・果樹や飼料用トウモロコシなどは原則加入できません。しかし、今般の台風被害により、市場価格の変動が大きい上記作物なども壊滅的な被害を受けたことから、JAグループ北海道では、補償対象外となる各農作物に対して、緊急支援対策を国や、全国共済連合会などに求めることを決議しました。

 「農業共済制度」は、共済金が支払われた場合、翌年度の保険料率(基準単収)が上がります。国の災害保険制度である特性、保険業務上では当然のことと思われるかも知れません。

 一方で、自然災害の猛威には、なす術もなく、ただただ未曽有の被害状況にさらされ、茫然自失の状態にある農業者が多くいます。加えて、次年度以降も、甚大な台風被害以外にも自然相手の農業者には様々な農作物の『減収要因(長雨、干ばつ、日照不足、霜、高・低温被害など)』があることから、今回の一連の台風被害は「特例扱い」とし、翌年の査定に影響を及ぼさない様、粘り強い団体要請が必要となります。

 とりわけ、北海道では、これまで大きな台風被害に直面することがなかった地域・気候条件などに加え、地域農業者の不断の努力こそが、国内外に冠たる最高峰の収量・品質の両面で大きな評価を得てきました。
 
 それが、今般の台風被害によって、先祖伝来の『地力(表土)』が1mも削り取られた地域もあり、当地のプロ農家の言葉にして【半世紀以上もかけ大切に作ってきた農地】が、一瞬にして表土流出に加え、土砂・風倒木の流入などによって目を覆う変わり果てた「姿」となってしまいました。

 そのため、次年度以降も農業経営を諦めることなく、生産現場のプロ農家が意欲的に営農を再開できるためには、地域間レベルのきめ細かな不安払しょくと同時に、国や道、各自治体に対して、1日も早い農地復旧と農業用関連施設などの復興対策要請が今、何よりも求められています。

 被災された皆さんへ心からお見舞いを申し上げると同時に、次年度以降も意欲をもって基礎食料生産を担う農業者とともに一日も早い回復を願ってやみません。■
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2016年10月04日

北海道酪農・畜産に及ぼす影響‐バター不足の真実‐AMネット会報より「北海道通信vol.5」


AMネット会報LIM80号(2016年8月発行)より
北海道通信〜この先の『食と農と環境』への取り組みvol. 5
清水 敬弘さん

北海道・オホーツク地域の農業団体職員、清水敬弘です。今回は北海道の酪農、特にバターを中心にお伝えします。

○「北海道酪農・畜産」が果たしてきた役割
生乳生産は「品質管理」が大変重要ですが、スーパーや大手量販店で売っている1ℓパックの牛乳は「飲用乳」と呼ばれ、大消費地(首都圏・関西圏)から遠い北海道からも供給しています。

「飲用乳」の他に、生クリームやチーズ、バター・脱脂粉乳などの「加工原料乳」と呼ばれる、乳製品加工の生産にも北海道の酪農生産者は大きな力点を置き、日本国内の「加工原料乳」の大半を生産しています。

一頭の牛から生産される同じ生乳から、製造工程の違いにより「脱脂粉乳・バター・チーズ・ヨーグルト・牛乳・アイスクリーム」などが抽出されています。これほど、多元販売が可能な生産加工品は、生乳以外に見当たらないかもしれません。

実に様々な各用途別の商品価値を見出していく酪農業と、「和牛」に代表される高値取引が続く畜産業を兼ね合わせ、北海道での酪農・畜産はこれまで複合的な主産地形成を続けてきました。


○『バター不足の真実』について@
 ちょうど2年前の平成26年9月頃より、大手各紙や、メディアなどでも「バター不足」(実際は脱脂粉乳も不足)を報じる様になりました。『なぜ(バターだけ)不足するの?』と、お思いの方もおられるかも知れません。

全国的な酪農家の廃業などにより、生乳生産量総体が減少し、夏場の最需要期に「飲用乳」の品不足を補うため、『道外移出(北海道の生乳を都府県に送ることの意)』を行っています。

本来ならバターに仕向けられる生乳が「飲用乳」に使われることで、生乳量が足りなくなり、結果的に「クリスマス需要期」と呼ばれる12月頃にはバターが不足する、業界的な『産業構造』のエラーが発生します。

この問題は、『国内生産量を全国レベルで増大することでしか解決に向かわない』のですが、現況、道外だけでなく、北海道内においても年間200戸ペースで酪農家の廃業が続き、国内総体の生産量減少に歯止めがきかない状態が続いています。
私どもが、「ここままでは日本酪農・畜産の存亡に関わる!」と申し上げているのはそのためであります。


○『バター不足の真実』についてA
 バターは生産過程で『3つ』の分類がされています。
@業務用バラバター(冷凍25s)、A業務用ポンドバター(冷蔵450g)、B家庭用チルドバター(冷蔵200g)です。スーパーや大手小売店に出回るB家庭用バターは、冷蔵鮮度のため品質保持期限が短く、各メーカーの適正な年間供給量が定められているといいます。

 そのため、前述の『産業構造』のエラーに対応するために農水省では、@・Aの「業務用バター(脱脂粉乳も)」の追加輸入を段階的に決定しましたが、皆さんが年間で使うB「家庭用チルドバター」は、決して不足していませんでした。

しかしニュース報道ではBの家庭用バターが不足するかのように伝わったため消費者の「買い占め」が全国各地で発生。内外関係者も困惑する状況でありました。

生乳も『足りないものは輸入すればよい』と消費者感情を逆手に取り、農業団体の解体論が踏み込んで論じていたのもこの頃からでした。一方、牛乳の様に腐敗しやすく、日々・季節ごと供給や需要が変動特性のある商品は、どの先進国でも「国策」によって対策措置を講じています 。

わが国も全国10の指定団体が牛乳・乳製品の需給調整機能を担っていますが、【より活力ある酪農業・関連産業の実現】と銘打ち、「規制改革会議」が指定団体制度の廃止を打ち出しました。

同制度の廃止は、地元JAと酪農振興を続けてきた農業団体解体への序章となります。
私どもは、大手乳業メーカーとの交渉力、合理的な輸送体制による経費減、需給変動の弾力的な対応を可能とし、生産者・消費者に最も合理性のある販売方法をしているのが「指定団体制度」であると自負しています。

政府は、TPP関連政策大綱の検討継続12項目を始め、生乳の指定団体制度などを含む「農政課題」全てを参院選後の論議に先送りしました。そのため、秋の臨時国会に短期間で集中的に取りまとめられると危惧されています。

安倍政権が掲げる『強い農業づくり』や、TPP協定と大きく関連する分野の酪農・畜産の今後の動向を注視しながら、同時に生乳生産を含め国内安定供給と健康増進の両全を担う『酪農王国』北海道であり続けていきたいと切に願っています。■


<これまでの北海道通信はこちらから>
北海道通信vol.1 北海道JAの役割
http://am-net.seesaa.net/article/430972793.html

北海道通信vol.2 北海道農業とTPP聖域5品目の関係
http://am-net.seesaa.net/article/438060983.html

北海道通信vol.3 北海道農業事情
http://am-net.seesaa.net/article/439134227.html

北海道通信vol.4 生乳の仕組み、指定団体制度の役割
http://am-net.seesaa.net/article/442570265.html
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2016年10月03日

北海道酪農・畜産に及ぼす影響‐生乳の仕組み、指定団体制度の役割‐AMネット会報より「北海道通信vol.4」


AMネット会報LIM79号(2016年5月発行)より
北海道通信〜この先の『食と農と環境』への取り組みvol.4
清水 敬弘さん

北海道・オホーツク地域の農業団体職員、清水敬弘です。今回は『酪農王国』北海道酪農・畜産に及ぼす影響をお伝えします。

日本政府は3月、「TPP承認案」及び「関係法(11本)」を閣議決定、国会に提出しました。
その渦中で酪農関連は、3月末政府の諮問機関「規制改革会議(農業WG)」が、現行の『指定団体制度』 を廃止する提言案を発表、秋までに結論を得ると明記したため、現在も酪農内外関係者の間で批判が相次いでいます。

「指定団体制度」の役割
生乳は品質管理が極めて重要です。全国各地で個々の酪農家が小さな「単位」で販売すると非効率で安定供給に至らないことから、まとまった生乳流通を政策的に後押しする体系が全世界で取られています(『1元集荷・多元販売』)。
そして日本では、集・送乳及び販売の交渉権を『指定団体』が行使すると決められています。

今日まで国の指定団体制度のもとで行ってきた生乳の『1元集荷・多元販売』のルールは、牛乳・乳製品の安定供給、北海道酪農・乳業の総体的な発展を支えてきました。さらに、腐敗しやすい生乳の需給変動に対応する『調整機能』を北海道で担ってきたのは、指定団体「ホクレン農業協同組合連合会」でありました。

広大な北海道で、北海道各地で酪農経営を継続できた理由の一つに、生乳の『統一乳価(プール乳価)』があります。チーズやバターの用途別乳価の価格維持、畜産の個体販売など、複合的に酪農経営を成り立たせてきました。

これまで生乳は『統一乳価(プール乳価)』を遵守することで、都府県の「飲用乳」に対し、北海道の生乳は需給変動の『調整弁(加工原料乳)』として、全国の酪農家同士、役割分担してきました。
飲用乳よりも価格の安い『加工原料乳(チーズ・バター向け)』に仕向けられていることを北海道の「プロ酪農家」の大半の方々は理解しています。


しかし今、NZの大企業・フォンテラ社は、TPPで日本の牛乳・乳製品のシェアを虎視眈々と狙っています。フォンテラ社は北海道の釧路管内(酪農主産地)に出向き、JA組合長や酪農生産者と『現地意見交換会』と称して、指定団体・ホクレン以外との生乳販売の他 、乳製品加工・販売などのより踏み込んだ商談を進める噂があることなども、今後の本道酪農生産のあり方を鑑み、同社の企業参入に大変危機感を持っています。

仮に生乳の自主流通(アウトサイダー)を目的に、前述のNZ・フォンテラ社や、都府県並みの買い取り価格を示す(株)MMJが北海道のみならず、全国中の酪農家から局地的に生乳を買いあさるとどうなるでしょうか?

価格・生産量も含めた産地間での「住み分け」の調整が難しくなり、酪農家同士の『モラルハザード』を助長するだけでなく、スーパーなどで小売される国内の「牛乳・乳製品」の価格高騰を招くことが必至となります。

北海道においても、酪農家戸数が年200戸ペースで減少しています。
後継者不足や、牛舎施設の老朽化など、酪農生産現場を取り巻く厳しさは加速度を増しています。TPP協定いかんに関わらず、酪農家戸数や頭数の減少など生産基盤の弱体化により、現在も全国的な生乳生産量の減少・低迷に歯止めがかかりません。
また、TPP協定の発効によって、最も甚大な影響を被るのは、酪農・畜産分野であると試算されています。


最後になりますが、今回の熊本大地震で被災された方々に心から哀悼とお見舞いの意を申し上げながら、5/1現在地震による農業関連被害総額は1,085億円を超え、生乳廃棄量621d、家畜の死亡・廃用54万1,310羽にも及びます。
一刻も早い復旧対策が望まれる中、生乳出荷のメドが立たない熊本県の指定生産者団体を緊急支援しているのは『JAグループ』です。この先も、生乳生産を含めた安定供給を担う農業団体であり続けていきたいと切に願っています。■


<これまでの北海道通信はこちらから>
北海道通信vol.1 北海道JAの役割
http://am-net.seesaa.net/article/430972793.html

北海道通信vol.2北海道農業とTPP聖域5品目の関係
http://am-net.seesaa.net/article/438060983.html

北海道通信vol.3北海道農業事情
http://am-net.seesaa.net/article/439134227.html

北海道通信vol.4 生乳の仕組み、指定団体制度の役割
http://am-net.seesaa.net/article/442570265.html

北海道通信vol.5 バター不足の真実
http://am-net.seesaa.net/article/442570586.html
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