公共サービスの民営化を進める政府
2018年6月PFI法改正が、同年12月水道法改正も成立しました。
PFI法は、ほぼ全ての「公共施設等」が対象と非常に広範です。
以下の図を見てもわかる通り、さまざまな分野の公共施設のPFI実施方針が、公表されているだけでもこれだけの数字が上がっています。
(対象外は「各事業の所轄部局で定める」もののみ)
(出典:内閣府 PPP/PFIの概要)
政府は内閣府に「PPP/PFI推進室」を設置し、PPP/PFIを優先的に検討すべきとする指針を出し、ワンストップ窓口を作り、全額補助金でのコンセッション導入可能性の調査など、国の支援機能の強化が図られています。
その中でも水道は、「コンセッション方式導入による官民連携の推進」が水道法改正により明記され、水道のコンセッション導入のための調査を内閣府が推進するなど、まさに主要ターゲットです。
そういった調査や委託を受けた地域の中から、「コンセッション導入に向けた働きかけトップセールスリスト」として19自治体が名指しされています。
※「トップセールスリスト」対象事業体
大阪市・奈良市・広島県・橋本市・紀の川市・ニセコ町・浜松市・大津市・宇都宮市・さいたま市・柏市・横浜市・岐阜市・岡崎市・三重県・四日市市・京都府・熊本市・宮崎市
ちなみにトップセールスリストの「対象事業体の選定指標」は、こうなっています。
@コンセッション方式導入に向けた実施方針を策定済み
Aコンセッションを含む官民連携検討のために、厚生労働省の交付金や委託調査を活用
B下水道のコンセッションを検討
C要件に該当(人口20万人以上、平成25年度に原則黒字経営、2040年度まで人口減少率が20%以下)
特にCの「要件」を見ると、
「そこそこの人口規模で、今後も減らず、黒字運営」といった、好条件の自治体が対象であることが分かります。
なぜ、好条件の自治体をよりすぐり、わざわざコンセッションを導入せねばならないのか?理解に苦しみます。
PFIで「プレイヤーが増え、より複雑になる」
コンセッションは、公共施設等の「計画策定」「建設」「維持・管理」「運営」など多分野の業務を行うため、多くは、複数の企業でグループを作り、SPC(特定目的会社)を設立します。
その際、SPC参加企業間はもとより、SPCと地方公共団体・金融機関、SPCが破綻しないよう地方公共団体と金融機関の間など、いくつもの協定や契約を結ぶこととなります。
(出典:内閣府HP PFIの仕組み)
PFIで「競争がなくなる」
水道事業のコンセッションであれば、通常20~30年と長期にわたります。
そもそもSPC参加企業は、営利を目的とする民間会社であり、利益のために参加しています。
業務ごとに入札する従来と比べ、PFIはSPCに、一括して任されています。
するとどうなるか。
外部との価格競争なく、SPC参加企業内で請け負う「SPC版の随意契約」となり、結果「割高な価格」となる可能性を容易に想像できます。
しかし、地方公共団体は現場もノウハウも無くなるため、その価格が適正なのか判断することすら困難になります。
そもそも、どこまで情報公開がされるかも不透明であり、すでに浜松市の下水道コンセッション契約でも、「企業の利益に反する」とされれば情報公開する必要がありません。
長期間、競争がない状態の中で、ブラックボックス化し、料金が高騰しないか。契約内容は履行されるのか。市民サービスレベルの向上は可能か。
コストカットしながら、それらが可能なのか、非常に疑問です。
PFIで「想定外への対応が遅れる」
長期契約期間中に、想定外の災害が起きればどうなるでしょうか。
まずは地方公共団体・SPC(特定目的会社)のどちらの分担か、契約書のリスク分担を確認することから始まります。
分担が明確でない場合は、まずはどこが責任をもって対応するのか、交渉・調整が必要となります。
いざという時、責任の所在はどこか。契約が多岐にわたるほど、参加企業内の思惑も錯綜し、調整困難となるでしょう。
また、SPCの分担であっても、SPCが費用負担できない場合、サービス継続の必要があれば、結果的に、公金を投入せざるを得ないでしょう。
日常的に、リスク分担を再交渉するとしても、長期の事業リスクを見通すことは非常に困難です。
地方公共団体が普段から維持管理していれば、「すぐに対応する」ことが可能です。PFIで想定外時の対応が遅れることは明らかです。
また、日ごろからの耐震化も、「性能発注しているから安心」というわけではありません。「契約通り実施されない」事例が、海外で多く起こっていることも留意すべきです。
料金収入はSPCが徴収する、つまり、金を握るのはSPCです。現場の運営もSPC、金もSPCが握るのに、最終責任は行政がとることになります。
一例として、廃案になった大阪市の水道民営化プランでのリスク分担を見てみます。
災害などの「不可抗力リスク」では「物理的損壊が、運営権者が行う維持管理の範囲内で対応できる場合」は民間事業者の担当、「物価変動リスク」「金利変動リスク」は、「経営改善の余地がある場合」は民間事業者のリスク担当とあります。
つまり民間事業者が「できない」と言えば、実質的に、行政がリスク分担せざるを得ないということになります。「リスクは行政に、利益は民間に」と言われるゆえんです。
PFIで「コストがあがる」
PFI導入により、「株主配当」「役員報酬」「法人税」など、公営企業であれば不要な経費が必要となります。しかし、それ以外にも、PFI固有の経費がかかります。
(出典:国交省のPPP/PFIへの取組みと案件形成の推進)
PFIを使うということは、参加企業や金融機関、地方公共団体など、プレイヤーがふえるということです。
当然、それぞれ協定書や契約書が必要となり、調整コスト、事業計画等の調査・提案コスト、それらにかかる弁護士やコンサルタントへの外部への報酬等が、必要となります。
また資金調達の金利コストも上がります。起債など地方公共団体は、これまで市場よりも低金利で調達することが可能でしたが、民間が調達するとなれば、信用力の差は歴然であり、当然金利があがります。
施設更新には多額の資金が必要なため、金利増も、大きな負担となるでしょう。
地方公共団体の負担も増えます。
それら契約は地方公共団体の職員が取り扱える専門性を超えており、外部アドバイザーへの報酬も当然必要となります。
モニタリング・管理監督で事業内容を監視するとしていますが、現場のない中の実施は、安全性を担保しようとすればするほど、従来の内部監査より手間・コストがあがると容易に想像できます。
PFIで「サービスが不安定に」
民間事業者・公共、それぞれがサービスを実施した場合の財政負担を比較し、民間事業者がカットできたとなれば、「VFM(Value for Money)」がある、と判断します。
このVFMの有無が、PFI導入が適当かどうか、判断材料となりますが、これらコスト増の中、民間事業者がVFMを上げるには、図で見る通り、水道事業の維持管理・運営費、設計・建設費を下げるしかない、ということになります。
PFI導入で、サービスの向上を図ることが、そもそもスキームとして困難であることは明らかです。
PFI方式で、地方公共団体はSPCに対し、「運営権」=物件(財産権)を売却します。
逆に言えば、地方公共団体にとって、運営権の売却で得た資金を使って、企業債などの債務を返済できることが大きなメリットの一つです。
2018年PFI改正によって、運営権を売却した資金で過去の貸付を返済しても、これまで繰り上げ返済に必要だった「繰上償還に係る補償金」が免除されることとなりました。これは債務削減を狙う地方公共団体の負担を減らすものです。
内閣府がワンストップ窓口で相談も容易、調査費用も全額補助、PFI導入すれば債務返済も容易に…こういったあらゆる方法で、国は地方自治体のPFI/コンセッション導入を後押ししています。
SPCは公共サービスの「運営権」を「物件」とし抵当権の設定や譲渡が可能です。
「運営権」を担保とし、銀行や官民ファンド、証券市場から資金調達を行うことができます。
「運営権」が担保になる。万が一、SPCが破たんした場合、その担保はどうなるのか。
英国第2位の建設会社であり、多数のPFIを請負っていたカリリオン社が、2018年1月破綻した事実があります。
イギリスの市民サービスへの影響は、どうなったのか。政府・地方公共団体の費用負担は?詳細な報告が待たれます。
台風21号で露呈。関空コンセッションの危うさ
関西国際空港は2016年4月以降、国内第1号の空港コンセッションとして、オリックス鰍ニフランス資本のヴァシン・エアポートを中心としたコンソーシアム企業が運営しています。
2018年9月、台風21号による高潮と高波によってターミナルや滑走路が浸水し、地下の配電盤が故障して停電しました。
いくつか記事見だしを上げてみるだけでも、コンセッションのもろさを指摘する報道が絶えません。
産経:関空めぐる権利関係複雑 防災、復旧のネックにも
東洋経済:「関空」経営陣、災害対応で露呈した根本問題 民営化後の日仏合弁体制が生んだひずみ
日経:災害時の対応に課題も 関空運営、台風21号で混乱
日経 xTECH:民営化から2年半、水没した関空の“後始末”は誰が?
「短期間で復旧したのは、関空を運営する関西エアポート(KAP)経営陣の危機対応能力を疑問視した官邸が、早い段階で国主導の復旧に事実上切り替えたからだ」
「KAP経営陣の資質については、国内外の航空会社が2016年4月の民営化当時から疑問視しており、台風対応という危機管理で表面化しただけ」
などと手厳しい記事が顕著ですが、これは関空に限ったことではなく、そもそもPFI/コンセッションが抱える課題そのものと言えるでしょう。
民間事業者の「創意工夫とノウハウ」とは?
政府資料はじめ、コンセッション導入を検討する自治体の資料をいくら見ても、民間事業者を入れるメリットは「民間の創意工夫とノウハウ」という抽象的なものであり、具体的に何かが見えないのが現状です。
唯一具体的なものは、「一括発注による業務の削減」「職員数削減」と、どこも同じですが、これは民営化のメリットと言えるのでしょうか。
技術継承が危ういのはなぜか
業務委託、包括委託、PFI、コンセッション、完全民営化…と様々な種類がありますが、これらの手法はすべて「PPP=官民連携」です。
「業務委託」は、すでにほとんどの自治体で進み、水道料金の検針業務をはじめ、管路耐震化の工事など、個々の業務が発注されています。
大阪市も民間への業務委託が進み、10数年で2000人から1300人まで職員数が激減しました。
これは「700人分の現場を失った」だけであり、仕事が減ったわけではありません。
業者に対して、発注・管理監督業務だけでなく、市民サービスを円滑にするため、民間事業者の失敗のフォローやノウハウを教える必要があります。
また、水道局がすぐに対応できたサービスも民間に任せた結果、日数・費用が増えるなど、市民サービスも悪化しています。
この10数年もの間、全国の水道職員の若手採用はほとんどなく、30~45%もの職員数が減らされています。
全国の水道で「技術継承が困難」な状況は当然の結果です。
PFI/コンセッションだけでなく、PPPをこれ以上増やすべきではありません。■